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『ラブライブ!スーパースター!!』不安な自分とともに、誰かの勇気になる笑顔を

『ラブライブ!スーパースター!!』も今回を含めて残り二話なわけですが、「あっという間に最終話」という気がしますね。長いようで短かった。
振り返ってみると色々なコトが思い出されますが、それはひとまず最終話が終わった後に置いておくとして。
11話は澁谷かのんに再びスポットライトを当てた回でした。
「えっ、またかのん?」と思うところもありますが、彼女から始まった物語が彼女に戻ってくるのはある意味当然のことであり、いよいよ最終話に物語が収束していくのかと思うとワクワクしたのですが、その期待感に応える一話でした。
「澁谷かのんは一人ではまだ歌えないのでは?」という疑問に挑んだ今回は、色々と必見なんじゃないでしょうか。

六話のリフレイン

今回は嵐千砂都がかのんの背中を追いかける側から、かのんと同じ目線で同じものを見る立場になった六話のリフレインのような回でしたね。
「リフレイン<のような>」とつけたのは、今回の物語の主役が嵐千砂都ではないからです。では誰が主役かというと、もちろん澁谷かのんですね。
嵐千砂都が自分一人でも輝く自信をたった一人の挑戦で成し遂げたように、今回は澁谷かのんが「自分一人で輝くための自信」を手に入れるべく、ステージに挑みます。
「ステージ」と言っても色々ありますが、澁谷かのんが一人で輝くためには「一人で輝く自信を持てなくなった最初の事件」に立ち返る必要があるでしょう。
言うなれば「負の原点」。その負の原点となるのが彼女が「緊張と不安のあまり、声が出せずに気絶してしまった」という強烈で辛い思い出がある「かつて通っていた小学校の講堂」でした。
つまり「自分を苦しめ、自信を喪失させてきた最初の事件と同じ場所に再び挑む」という構図になるわけですが、今回描かれたのは「負の原点を乗り越えたかのんの成長っぷり」ではなく「当時の自分と向き合い、あの時の気持ちを引き連れる事で、たった一人でも誰かの笑顔のために歌を届けられる存在になった澁谷かのん」という新しい輝きでした。

一人で輝く事の意味

では、なぜ「一人で輝けることは大事なこと」なのでしょうか?
今回の主役だった澁谷かのんだって、一人では人前で歌うことが出来ませんが、皆と一緒なら歌うことが出来る。五人で「Liella!」としてステージに立つのですから、「一人で輝けること」はそれほど重要ではないのではないか……と思ってしまいがちですが、この辺りは前話で澁谷かのん自身が言ったことで解消されていますね。
前話で平安名すみれのセンターを巡る一連の流れにおいて、澁谷かのんは「全員がセンターを出来るぐらいじゃないとラブライブ!には勝てない」と口にしています。
これは「センター」というポジション的な話ではなく、「五人が五人ともセンターを務められ、それを周囲に認めさせるほどの存在でなければダメだ」ということ。つまり「他の四人の輝きに負けているようではダメだ」ということでもあります。
澁谷かのんはこれまでセンターを務めることが多いキャラクターでしたが、それも「皆がいるから輝ける」であって、彼女自身の輝きではありません。ラブライブ!で勝つためには彼女自身が輝く必要がある。そして彼女自身が輝くためには、自分自身が抱えている「歌えないかもしれない」という不安感と向き合わなくてはいけないのです。

この辺りの使い方は『ラブライブ!スーパースター!!』のシリーズ構成の面白い点の一つですね。
メンバーが少なくなって、描写をこともあると思いますが、前話で少し触れられた内容やこれまでさりげなく見せてきた描写が、思いがけない形で物語に跳ね返ってきて、予想すらしてなかった響き方をしてくる。
嵐千砂都と澁谷かのんが似た者同士だったことも、今回のことを踏まえての展開だったと考えると辻褄が合う展開でしょう。
そして何よりかのんの事情を強く理解していたのが嵐千砂都というのも二人の付き合いの長さを感じられていいですね。素晴らしいですね。

「出来なかった自分も引き連れて前へと進む」

素晴らしいといえば、澁谷かのんのトラウマについて「克服する」ではなく「トラウマも引き連れて進む」という物語にしていた点も良かったですね。
単に「克服する」でも悪くはないのですが、それは「過去の過ちを正す」という意味合いになってしまう。言ってしまえば失敗した当時の自分を上書きしてしまうんですね。
しかし「引き連れて前へと進む」だと失敗した当時の自分の気持ちも尊重しつつ、今の自分もそこに共存させる事ができる。これにより「不安感を持っていて、どんなことをしても拭いきれない」という小学生時代の澁谷かのんのような人にも寄り添うことが出来るんですよね。
そういう「不安な心に寄り添える」ということが澁谷かのんの「誰かを元気にする笑顔」の根底にあるものなのでしょう。だから嵐千砂都は澁谷かのんに憧れたわけで、トラウマを克服する形だとこれは出来なかったと思います。
そしてそういう「不安に押しつぶされて失敗した経験」を何度も味わってきた澁谷かのんが、その不安な気持ちも引き連れてステージに立ち、歌うことが出来た。
これにより澁谷かのんはその苦い経験を昇華した多くの人を笑顔にできる強い輝きを手に入れる事ができました。
この輝きで挑むラブライブ!がどうなるのか。楽しみですね。

結びに

来週がいよいよ最終回なわけですが、『ラブライブ!スーパースター!!』は箸休め的なエピソードが一話もない作品でしたね。
強いて言うならユニット名を考える回ですが、あれについても「既に決まっている名前にどういう理屈を通すのか」は意味があるものですから、本当に面白い。良い作品だったなと思います。
様々な経験を経て、ついにラブライブ!へと挑む彼女達がどんな星になるのか。見届けましょう。最後まで。



プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。