【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第28話

 青山は息を詰める。こめかみを汗が伝っていく。出て行けと言われているが、聞きたいことが山ほどあり、葛藤が酷い。

 話ぶり返して、ヨセフが自分の両親を殺めたのだと、青山は悟った。そしてヨセフの脳以外の身体機能を事実上屠ったのもまた両親なのだろう。つまり、ヨセフは己から両親を奪い去った――敵だ。職務上の敵であるだけではない。青山一個人から見た場合も、紛れもない敵である。

「一つ、聞かせてくれ」
「なんです?」
「兄の体が適合すると、いつ気づいた?」

 青山の問いかけに、面白そうな表情を浮かべ、悠然とヨセフが笑う。
 青山は思い出していた。篝が別行動をしていたらしいと。本来そのような状況はあり得ない。特別刑務官同士が二人でいる機会は多々ある。センシティブに兄が堕ちたという話も、そもそも槇田特別刑務官の証言以外になんの証拠もない。体を得るために、兄が襲撃されたのだとしたら――?

「兄の脳を正確に撃ちぬいたのも、お前か? あるいはお前が指示をした第三者――つまり槇田特別刑務官か?」

 兄の体は、脳以外の全てが無事だった。考えてみれば、不自然なほどに。

「――全ては私の掌の上だった、とだけ、お答えしておきます。そろそろお喋りは終わりにしましょう。今ここで貴方を殺すのは、芸術家としてナンセンスだ。貴方には、もっと相応しい最期を用意しておくと約束しよう」

 その後、青山は素直に帰った。死んでも差し違えたいようにも思ったが、青山の生真面目な性格は、情報を持ち帰る事を優先させた。同時に、篝の姿が幾度も脳裏を過っていた。

 長々と目を伏せ、ゆっくりと瞬きをしながら、青山は来た道を戻る。
 その間、ずっとヨセフへの憎しみと、冷静な理性の狭間で、青山は揺れ動き、表情を歪めていたのだった。


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