【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第27話
するとある日、『移植して貰った患者』からの面会申請があった。これもまた、法律で許されている。
「篝、少し出かけてくる」
篝の白い頬に手で触れ、柔和に青山が笑う。すると笑顔を返して篝も頷き見送った。
待ち合わせ先は商業施設の最上階。
移動するにつれて人気が無くなっていくことに、どことなく不審さを覚えながら、青山は目的地に立った。そして目を疑った。
「兄さ……ん?」
「いいや。私は心臓以外の身体部位を提供して頂き、貴方のお兄様の体が人工心臓に適応する状態だとは確認していたため、五体満足の体を得て――要するに待機していた脳移植適合者である貴方のお兄様の体をもらい受けた者です」
「……そうか。脳移植か」
脳移植は、今なお、拒絶反応が起きる。適合ドナーでなければ、脳移植は不可能だ。
「だが……適応すると知っていた?」
「ええ。貴方が生命維持装置に繋ぐ指示を出す前から、私はこの体を欲しておりましてね。貴方が心停止を選択するようなら、病院を襲撃してこの体を奪取する計画を立てていたのですが、手間が省けて幸いでした」
その言葉に、青山は嫌な汗が浮かんでくるのを感じた。
「篝さんのお具合は?」
「……何故、篝のことを?」
芸術家である篝の事は、一般市民にはS級の機密だ。
「なにせ私が襲撃させたものですから。きっとそうすれば、貴方にドラマティックな芸術を見せられると思いまして。憎き青山夫妻の血を引く最後の生存者である貴方には、最高の復讐を約束します。憎悪を表現した、私の傑作を披露したい。篝さんの胸を撃ったのも、その一幕だ。貴方が心臓を抜き取り、他の体を捨てるというのも予測してはいましたが、実にロマンティックだった。貴方が見せてくれたドラマは、ある種の芸術ですらあった」
「何を言って……」
「改めまして、私はヨセフと申します。国内で唯一、私の脳移植に適合するドナーであるこの体を、ずっと欲しておりました。まさか篝さんが関わるとは思ってもいなかったが――警邏庁もある程度の才覚はあったようだ。元々、篝さんに真実を見せたのは私であり、彼女が私を追うように洗脳したのは彼らなのだから。篝さん達は、なにせ貴重なサンプルだ」
「それは、どういう……」
「全ては因果。私の体を屠った貴方のご両親が実に憎い。脳だけで生きてきた苦痛が、やっと解放されたのもまた、この体を生み出して下さった貴方のご両親のおかげでもありますが。さて、お礼に今日は無事に帰しましょう。どうぞ、出て行って下さい。次に会うときは、敵同士としてお話しすることになるでしょうからね」
兄の姿をした〝ヨセフ〟が、兄とは違う表情で笑った。
彼は手には、拳銃を構えていた。
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