【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第20話

「服を脱げ、ああ、まだ声帯を封じていたのだったな。フェーズ2に移行」
「ぁ……ね、ねぇ? あのさ、それ、やらないとダメなの?」
「そうだ。規則だからな」

 このように本日も摘発後メンタルケアが始まる。
 ベッドの上で、服を脱いでいる篝を、後ろから青山は抱きしめている。

 その指で顎の下を擽られる内、篝の体がふわふわし始める。次第に白い肢体が小刻みに震え始め、息づかいに艶が宿り始める。創作を鑑賞される悦楽と肉体的な快楽が、少しずつ少しずつ、青山に触れられている腕と背中に当たる胸板から染みこんでくる。

 篝は、このように赦されたことが、人生で一度も無かった。

「……怖い……怖い……怖いよ……やだ……」
「怖い? 何が?」
「考えてること全部知られちゃうみたいで、体がドロドロになっていって、それが気持ちよくて、自分じゃ制御できない。怖い……怖いよっ……!」

 青山はそんな篝の体を抱きしめる。

「それで? 先程までの物語の続きは?」
「あっ……お姫様と王子様は……敵国同士の出自で……っ」
「そこは聞いたが? 本来恋をしてはならない者同士だったんだろう?」
「うん、うん……でも……」
「――お前もそういう恋がしたいのか?」
「そうじゃない……作品の登場人物の恋愛描写にリアリティを持たせるために、恋がしたいだけだよ。経験が無くても小説は書けるけど、多くの人が体験していることは、実体験した方がリアリティが増すから」

 不意に篝が、一瞬だけ透き通った目をした。

 だがすぐに快楽に飲まれた表情に変わる。青山は、合点がいったような気分と――純粋な恋愛がしたいというわけではなかったのかという、僅かな落胆を覚えた。何故なのかは分からない。しかし自分だって打算的な恋愛をしてきたが、この理由では、さすがに篝には敗北だと思った。

「篝。やはり俺以外にお前の恋人役や肉体関係の相手が出来る刑務官はいなかった。恋をするなら、俺にしておけ」
「っ……で、も」
「なんだ?」
「……青山は、私を好きじゃない」
「!」
「恋愛は、一方通行じゃ出来ない――……!」

 それ以上聞いていたくなくて、青山は篝を押し倒した。
 篝が意識を飛ばしたのは、それから程なくしてのことである。


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