【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第30話

 病室へと戻った青山を、起きていた篝が見上げる。ベッドを起こして、背を預けていた。

「青山、どうかしたの? 顔色が悪いけど」
「……いや。問題ない」

 青山はそう言うと、横から篝を抱きしめた。

「青山?」

 おずおずと篝が腕を回し返し、ポンポンとその背を叩く。

「どうかしたの?」
「お前は、まだ恋をしたいのか?」
「ううん。もういい」

 その言葉に、青山は残念だと思いながら、腕に力を込める。

「私はもう、恋がどんな感じか知ったから。まぁ、片想いだけどね。恋って、経験したからって文字に起こせるものではないと私は分かったよ。それに人の数だけ、恋もあると思った。だからいつか、私が恋愛物語を書く日が来たら、その……青山を主人公にしてもいい?」
「それは、許可できない」
「規約があるの?」
「ちがう。自分が主役では、まともに判断が出来なくなってしまう。なにせ俺とお前の話だろう?」
「なんで分かっ――」
「俺以外の相手に、いつ惚れる暇があったと言うんだ」
「っ」
「早くよくなれ。そうしたら、沢山デートにでも連れて行ってやる」

 このようにして、一つの恋もまた形を結んだのだった。

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