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起きてから1時間までの景色

起きたい時間のちょうど15分後に起き上がる。ラジオの先で、おじさまが強く安定した声を並べていた。ベランダのカーテンを開けると重たい布団みたいな曇り空が目に入った。神様の布団だなと思った。そのベランダの窓から右手の小さい方の窓のカーテンを開けると、神様の布団はここからも見える。神様は思っていたより背が高いようだ。奥に押して開けるタイプの小さい窓の取っ手を握り、身体を預けるようにして隙間を作ると、冷たい湿った風がふわっと部屋に入り込み、少し部屋が広がったような感じがした。

台所に向かうとシンクの下の扉を開け、黒光る鉄瓶に手をかけて、ゆっくりと持ち上げる。ゆっくりとしたスピードで水を満ちるまで注いだ。まだ顔を洗っていないので、目が半分ほどしか開いていない。車が1台、湿ったアスファルトを走る音が聞こえた。次第に埋まっていく鉄瓶の内側を眺めながら、半分の視界でも十分に生きていけるように感じた。水はひたひたまでいれることにしている。あふれそうになる半歩手前で水を止めた。瓶を火にかけるとすぐにトイレに行き、顔を洗う。顔を洗うと、目が普通の大きさに開いて、やはりこちらの方が便利だと気づく。温泉でもらったよれたタオルで顔を拭いていると、タオルが薄くてすぐに濡れ濡れになった。しかしそのまま洗面台のタオル掛けに戻して、濡れ濡れには気づかなかったふりをした。

お湯が沸くのを見ているのが好きなのかもしれない。気づけばコンロの正面にまっすぐおへそを向けて立ち、両手を腰に添えて立っていた。鉄瓶の真ん中を上から見下ろし、黒いお湯が沸騰しているのを観察していた。今日は季節が逆戻りしたかのように空気が冷たい。足先が床の冷たさに負けて、次第に床と足が同じ温度に変化していくのを感じていた。ふと自分の足を見ると、つま先がそれぞれ左右に開いていたので、つま先を内側にスライドさせ、足の向きをまっすぐ前にそろえてみる。腰の反りを直して、下腹を引っ込めてみる。腰に添えていた手も下し、偉そうにして申し訳ございませんでしたと心の中で謝った。

一口目は思ったより熱いことが多い。想像力が豊かな私は今日の一口目のぬるさに逆に驚いてしまった。意外とぬるい、は想像していなかった。世間ではサユというらしい。いつも珈琲を淹れているカップを使っているので、私のサユは少しだけ香ばしい。香ばしいサユを飲んでいるこのルーティンも1か月は過ぎたところだ。まだまだ若い習慣です。5月9日。今日は月曜日。

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