見出し画像

てぃくる 69 交信

「もしもし。聞こえる?」
「聞こえるよ」

「兎、いるの?」
「いないよ。一面の荒れ野さ」

「夢がないんだね」
「どうして? 荒れ野っていうだけで、他のことはなにも分かってないでしょ?」

「……うん」
「今、君が見ている月も。今ここにいる僕が見ている月面もどちらも現実だよ。そして、僕らはその全てを見ることは出来ない。決してね」

「そうだね」
「だから、夢が消えることはないよ」

「だけど……」
「そう。交信は出来るけど、僕らが交わることは出来ない。それだけさ。だから、君は夢を見て。僕がここに在るようにと」

「うん、分かった」
「じゃあね」
「おやすみなさい」

 ぷつん。つー……。

 『交信終了』

☆ ☆


『浮き世の穢れに交わることなく、月は青々と冴えわたる。
 わたしは、自ら塔となって月に手を伸ばす。

 お互い何も言葉を交わすことなく。
 それでも何かを語り合おうとして』


 拙著『月と鉄塔』から。

(2014-03-13)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?