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てぃくる 834 雨と桔梗

「雨で濡らさなくても、桔梗は青いのにね」
「晴れたら晴れた時の青、濡れれば濡れた時の青。それぞれに違うんだよ」
「で、あなたは?」
「さあね」


 晴れた日と雨の日のどちらが好きかと聞かれれば、やはり晴れた日の方がいいと答えてしまう。

 それは、濡れるのが嫌だからでも、明度が足らないのが嫌だからでもない。雨に当たった自分が、ちっとも潤わないことに苛立つからだ。

 雨に当たるのは、シャワーを浴びるのとは違う。望むと望まざるに関わらず雨は一方的に降る。それは、受けるか遮断するかしかない。シャワーのように蛇口を捻って出し入れを調整することはできないのだ。

 恋愛感情というのも、そんな雨に似ている。思うと思わざるとに関わらず雨は降るし、その雨によって冴える青とくすむ青があるのは紛れもなく事実なのだ。


「さて。そろそろ行くかな」
「どこへ? なにしに?」
「自分の青を探しに」
「ふうん……」


傘を畳む 秋雨しゅううの檻はやはらかし

(2021-09-20)


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