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eμlate - eμlate gardenをリリースしました

題の通り、新作のEPを古巣のMaltine Recordsよりリリースさせていただきました。Apple Music、Spotifyでストリーミング、およびマルチネの公式サイトより音源のダウンロードが可能です。


今作、僕個人として初めての歌モノプロデュース作品となります。いろいろな初体験や創意工夫が盛り込まれたEPとなったので、是非とも色んな人に聞いてもらいたく、noteで改めて記事を書こうと思いました。

リリースの経緯

概略はだいたいtomadさんのツイート通りです。今年の頭くらいにtomadさんからリリースの相談があり、πさんと1〜2曲くらい何かやってみないかという話をいただきました。自分はというとそれまでほぼ歌もののプロデュース歴がなく(過去のユニットでは歌ものをプロデュースしたことはあったが、作曲に関してはほぼノータッチだった)、自分で一から作っていくことにかなり恐怖心はあったのですが、そろそろキャリア的に歌くらい作れないと……という気持ちもあり、いざというときは見知ったメンバーに助けてもらえば1曲くらいはなんとかなるだろう、という気持ちで承諾しました。

そうして最初に作ったのが1曲目の「Trichosanthes」だったのですが、仮歌を収録した段階くらいで自分含めみんなが「意外とイケるじゃん」という感じになり、最終的には3曲すべてを手掛けさせてもらえることになりました。自分としても、3曲を通じての成長とともに、πさんの存在感と、自分の「歌ものを通じてやってみたいこと」がいい感じに重なり、他にない異形の作品が仕上がった実感もあり、こういう形でリリースできたことを大変うれしく思います。

楽曲紹介

以下、楽曲について紹介していきます。なお、楽曲の順番がそのまま制作した順番に対応しているので、後につれて新しい曲になっていきます。

Tr.1 Trichosanthes

しっとりとしたボーカルが物語の始まりを告げたと思いきや、破壊的なベースとリズムですべてを押し流す、この作品の挨拶と言えるドラムンベースです。

ダラダラとキャリアを続けてきた自分が、「やっぱり歌ものできたほうがいいんじゃないか」と思い直したそもそものきっかけがFox StevensonやThe Caracal Projectといった、歌心とサウンドデザインへの探求心が見事に合致したアーティストたちの存在です。特に、The Caracal Projectによる「Stone cold.」は、叙情的な音像描写と、生々しくも現代的なサウンドプロダクションが融合したトラックの上に、素朴な歌声と優雅なハーモニーが乗っかる奇跡的なバランスを湛えた楽曲で、まさしく「これを作りたい」と思ったことが「Trichosanthes」に結実していきます。しかし、自分の実力でこの音像を追いかけようとするとどうしても地味に仕上がってしまい、叙情性を追いかけすぎるのはやめました。修行が必要…

その代わりに取り入れたのがKAIFUやZerothといったいわゆる「Dubstep 2」流派のサウンドデザインです。彼らの代名詞の一つとも言えるGun Bassというベース音をこの楽曲では採用しました。そもそもしっとり歌い上げる曲にGun Bassが乗っかることはあまりないと思うので、そういう意味でも楽しく作れました。

メロディは(このEPすべてそうですが)難航しました。何パターンか作った後に一番キャッチーだろうなというメロディを採用したのですが、デモ段階では正直かなり自信がなかったです……。プリプロでπさんがバッチリ歌い上げてくれたおかげで、この楽曲に息が吹き込まれ、関係者みんなの心に灯が点ったのがわかりました。この楽曲にπさんによる詞と歌が入ったことでこのプロジェクトの成功がほぼ約束され、そこで生まれたさらなるインスピレーションが他の楽曲に活かされていきました。久々に創作の根源的な喜びに立ち戻れた、とても印象的な作品です。

Tr.2 Carnivorous Plant

ピアノとストリングス、そしてアシッドベースが絡み合い、叫びにも近い祈りの声が徐々に熱を帯びていく、そのすべてがオーケストレーションの濁流に飲まれ、空虚な低音の地響きに吸収されていくような、エクスペリメンタルなトラップサウンドです。

1曲目のプリプロ後、別の曲も作っていきましょうとなり、そこで生まれたアイデアが「早口を取り入れたポエトリー的な楽曲」でした。最初はもう少しHyperpop的なイメージに寄った楽曲をリファレンスとしていただいていたのですが、どうしてこうなった…? 最初に作ったデモを聞き直しても、意味がわかりません。

とにかく最初にあったのは、EpromやG Jonesのような雄弁に語るアシッドベースのイメージと、嘘みたいに壮大なオーケストラのアイデア。1曲目を通じて、πさんの歌声(特に低音)には圧倒的な空間掌握力があることがわかったので、メロディはそのあたりを押さえつつ、ライブ映えとかも意識した結果、かなりエクスペリメンタル色の強いベースサウンドが出来上がりました。そしてドロップの後半からは、Flumeからの影響があからさまに感じられますね……

今作は歌詞制作をπさんに一任していたので、様々なパートが多面的に展開するこの曲では特に大きな負担をかけてしまいました。それぞれ違うことを歌っているボーカルが前後に並んでいる、みたいな展開は歌モノを作るとしたらやってみたかったことなので(syrup16gの「バリで死す」みたいな)、嬉しさ半分、自己満足に付き合わせてしまった罪悪感半分です。

ちなみに、この楽曲のレコーディング後に「KU100を試してみないか」という提案があり、ポエトリーの部分を一部KU100で録音し直しています。知り合いの中でも、Hylenくんが異常なパンニングにいち早く気づいてくれてよかったです。録音技術の拡張、という意味でも歌ものをやった上で収穫となりました。

Tr.3 Herbarium

雑多で無感情なパーカッションのグルーヴと、テープの録音をループしたようなチープなシンセサイザーに、πさんの声が降り注ぎ、すべてが共に朽ち果てていくような、耽美で退廃的なガラージです。

先にできた2曲がかなりアグレッシブな楽曲だったので、残りの1曲は攻めすぎない程度に調整しようという話の元、完成した楽曲です。フォーリー(環境音)を主軸にグルーヴを作っていくガラージは一回形にしてみたいなと思い、実際過去にもいくつかリズムループ程度のデモを作っていたのですが、いまいち楽曲に結実せずいたので、ここで一旦形にすることができてよかったです。

最初に作ったデモは、Ekcleの名曲「Moonstone」をリファレンスにしたような、よりミニマルで地味なトラックでしたが、トマドさんらのフィードバックを取り入れた結果、エレクトロニカっぽい音像に寄った作品に仕上がりました。自分だけではもうちょっと硬派な仕上がりになっていた可能性があるので、チームのバランス感覚に感謝です。

展開については、やってみたかったことの一つ、転調サビにも挑戦できました。視界が不自然に明るくなるような異化効果を狙ったところではありますが、普通にいい感じのメロディが書けたのもありお気に入りのポイントです。ポップス的な仕掛けを入れるだけではなく、間奏パートを長めに取って4つ打ちパートを入れるなど、ダンスミュージック的な要素も散りばめているのも肝です。色々詰め込んだ分、曲尺は若干伸びましたが……

ボーカルレコーディングも、3曲目にもなると和気藹々とした雰囲気で、全体的に楽しくやれました。色んなテイクや無茶振りに答えてくれたπさん、本当にありがとうございました……。

終わりに

以上がこのEPの中身となります。企画の発足から、3曲を仕上げるまでに半年もかかってしまいました……。別の仕事をしながらの制作とはいえども、自分の中の限界みたいなものを感じないと言えば嘘になります。リリース後の現状、辛うじて創作へのやる気はここ数年でも高く保てているのですが、それと相反して成長曲線に翳りが見えつつある自分の能力と戦いつつ、どうやって創作への時間をキープしていくか(あるいは効率化していくか)がこれからの個人的な課題になりそうです。

結構な時間がかかってしまいましたが、ここまで付き合ってくれたマルチネチームの皆様、畏敬の念と耽美性を湛えた、有機的なアートワークを手掛けてくださったITOAOIさん、そして長い期間を一緒に走り続けてくれたπさんに大感謝です。

そして、この音源に関心を持ってくださった皆様にも御礼申し上げます。ここしばらくのリリースの中でも特にポジティブな反響をいただけており、歌ものと向き合えてよかったなあ(そして、もっと早くやっていればよかったなあ)と実感しております。もし感想を共有してくださる方がいらっしゃれば、X上のポストでも、僕に直接でも、なんでもいいので言葉をかけていただけると大変励みになります!

EP全体のまとめは以上になりますが、今後余裕があればトラックの分析的説明をする動画(いわゆるBREAKDOWN動画)も撮りたいなと思っています。こちらも要望があれば是非ともお知らせください。

ここまで読んでくれた方に、spotifyでリファレンス音源のプレイリストを作成したので是非どうぞ。ありがとうございました!

Miiiあらためmizuki wada(名義の説明についてはまたおいおい…)
https://x.com/miiiofficial

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