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【感想】妖しいクラスメイト

 ※当記事は作品紹介レビューではなく、個人的な感想の記録です。

 カクヨムコン5の朝読小説賞受賞作「妖しいクラスメイト」書籍版が発売されました。九州地方という発売日ハンデにより四日遅れで入手、本日読了です。地域格差ああぁ!!(絶叫)

 こちらは著者である無月兄さんがはじめて書かれたという作品で、私は二年ほど前にweb版を読ませて頂いていました。
 文章の読みやすさや王道的ド直球の展開に好ましさを覚えつつ、主役である二人の距離感の絶妙さと、設定に仕込まれた苦味のバランスに惹かれてしまって――ありていに言えば、私が無月兄さんを「作家読み」し続けようと決めたきっかけの物語でした。

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 web版との比較としては、思っていたよりも大胆な改稿がされていたことに驚きました。特に主役二人が作中で初めて接触するあたりの麻里ちゃんの行動(反応)は、彼女のイメージを大きく変える変更だったと思うので、かなり思い切ったのだなぁと感じます。やわらかくなりましたね。
 私は書籍版の麻里ちゃんの方が好みです(断言)。web版では「年齢相応に潔癖な部分を持っている描写」だろうと考えていたのだけれど、他の場面で描かれる彼女の気質との整合性を考えれば、おそらくこれで正解だったのではないかしら。余分な棘がひとつ消えたような印象を受けました。
 ひとつだけ、一ヵ所だけ「勿体無い」と思ってしまったのは、改稿後の校正が甘いと感じる部分があったことです。上記の改稿とは違う場面です。その部分の改稿が効果的と思えただけに、なおさら勿体無かった……!
(マイナスと感じた部分はスルーすべきだったのかもしれないけれど、この感想文が「ファンによる盲目的な礼賛ではない」ということの証明として、感じたことを包み隠さず正直に書かせて頂きました。褒めを信頼して貰うには、駄目も言わねばならぬのです……どうかご理解頂きたく思います)

 ネタバレにならないよう、色々ぼかしながら感想など。
 まず、設定はめちゃくちゃ重いんですよ。文体は優しくて、表紙もあんなに爽やかなのに、設定だけがヘビー級。だけど決してただの飾りではなく、お涙頂戴的な属性付与でもなく、キャラクターの内面にしっかり取り込まれていると感じています。これを朝読向けにできるレベルの読み心地に整えてしまうのが、とても無月兄さんらしい書き方だなぁと思っています。
 主役の二人、麻里ちゃんと晴くん。大きな秘密を抱えているせいで、無邪気に生きることができなかった二人。彼らはまだ高校生なのに、孤独の苦しさを嫌というほど知っていて、それでも優しい子であるがゆえに、あえて孤独を選択する強さを持ってしまっているんですね。大切な人の為ならば、自分を傷付ける事を厭わない。それぞれ抱えた過去や生い立ち、内面に深く刻まれている傷……その辺りの描写が、本当に辛い。だけどもちろん、辛いだけでは終わらない。強い想いが力になるから。その王道的な健全さが、読み手の私を安心させてくれました。とても優しい物語です。
 児童向けレーベルからの刊行ですけど、大人が読んでも十分に楽しめるのではないかと思いますよ!

 これが「初めて書いた小説」って無月兄さん本当どうなってんだ、という極めて何の役にも立たない感想を最後に書き残しつつ。

 素敵な物語をありがとうございました╰(*´︶`*)╯

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