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森沢明夫『虹の岬の喫茶店』第三章『《秋》ザ・プレイヤー』を読んで

今回は泥棒家業初日の元包丁研ぎ師の話。
不景気で仕事を失い、借金の末、妻と子供に逃げられ、ついには夜逃げした男。人生のどん底を味わって、ヤケを起こして泥棒になる。最初の現場が虹の岬の喫茶店。そこで悦子さんの優しさに出会う。

「生きるって、祈ることなのよ」。祈ることを亡くした人間は、いくら心臓が動いていても生きていない。しかし、祈りを持たない人はいないと思う。ただ、自分の祈りを思い出せないほど、心が行き詰まってしまっただけ。それを悦子さんは「ザ・プレイヤー」という曲で伝えたかったのだろう。

悦子さんの優しさの中には深い悲しみが存在しているのだろう。そこには深い悲しみを味わったことがある人にしか出せない優しさがある。
著者の文章は優しさに溢れているが、悦子さんの優しさはそのまま著者の優しさでもあるのだろう。

祈りを思い出したこの男は、きっと新しい人生を切り開いていくことだろう。そして、家族と再会できることを、私は祈っている。

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