見出し画像

読書感想文 無題

今から読書感想文を書く。が、タイトルは言わない。言えない。とある単純明快な理由があって言えないのだ。久々にすごくヒリヒリする本を読んだ。

気になる人には検索すればわかるようにはしておこうと思う。こだまさんという方のエッセイだ。わかる人はあの本かぁとピンとくるだろう。なかなか衝撃的な帯が付けられていた。文庫本のタイトルは全く見えないように施されている。

一見馬鹿馬鹿しいようなそのタイトルを悩みに作者は人生を夫と共に歩む。教師になり、教師として悩む。教師としての悩みに全く無関係のはずなのに、タイトルの悩みはまた付随してくる。どんな大きな問題を目の前にしても、どんなに心身共に痛い思いをしても、悩みの根底はタイトルからブレることはない。

ふざけたようなタイトルと軽妙な書き出し、250ページ程の短い分量とは裏腹に、このエッセイにはある女性の人生が身を削るように綴られている。

1冊に底知れぬ苦しさと、もどかしさと切なさと悲しさと、生きている全ての人への優しさが詰まっている。ユーモアも溢れていて何度も笑ってしまう。どんな本?と聞かれると私はきっと優しい本だと答えるだろう。

実はこの本、高校生の頃から話題になっていたことを知っていたのだが、題名で避けてしまって読まなかった。実際に知ってはいても読んでいない人も多いのではないだろうか。あるいは、このnoteをきっかけに知ったけれど読まないなぁという第一印象を持つ人もいそうだ。とにかく誤解を生むタイトル。それでも読後にはこう思うだろう。やはりこのタイトルでないとダメだ。

この本を読んで私は1人の女として、20歳の大学生として、これから歩む人生を想像する。普通の愛とはなんだろう。普通の人生とはなんだろう。普通の精神とはなんだろう。社会とはなんだろう。幸せとはなんだろう。生きるとは、生きがいとはなんだろう。

ぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜんぶ、ぜんぶぜんぶ人それぞれなのだ。と、思った。

何気ない「普通」を根底にしたひとことは誰かを傷つけているかもしれない。全ての人への優しさに溢れたこの本は、私の世界から「悪」を消した。「悪」は存在しない。全ての「問題」は「悪」から生じる訳ではなく、どうしようもなく拗れてしまった紐だった。

(以下、少しのネタバレを含みますが、小説ではなくエッセイということもあり、ネタバレを見てもあまり問題はないと思います)

自分のことが嫌い。自暴自棄になってしまったこともある。精神的にも身体的にも病を患ってしまった。思った通りの人生を歩めない。仕事が上手くいかない。夫の風俗通い。夫も病を患ってしまった。子供ができない。そんな作者を普通は「不幸」というのだろうか。

たくさん悩みながらどんな時も作者は一生懸命だった。他者から見ると少々歪かもしれない形だけれども、作者は愛する人と共に生きる。心の底からこれで良いと言っている。作者が幸せか否かはわたしが決めることではない。

「できない、それだけなのに傷つけられる。人生できないことのほうが多いのに」漫画家おかざき真里が帯でこのように述べていた。

かるた。勉強。家事。バイト。就活。20歳の私の人生なんかこれだけ挙げればぜんぶと言ってもいいくらいだ。こんなちっぽけな世界の中でも、やっぱりできないことばかり。この先どれだけたくさんの上手くいかないことが起きるのか見当もつかない。生きていくことはできないことと対決することなのかとすら思えてくる。

人間はどうやらできないことをできるようになりたいという性のようだ。苦しいことに首を突っ込み、苦しい苦しいと嘆くものみたいだ。他人と比べ、悩み、劣等感を抱き、傷ついた心は少しのことで人間性を否定されたような気持ちになってしまう。普通の人間ではないと思ってしまう。意外と大きな事件なんかはへっちゃらなようだ。いつだって悩みは内側から生じている。

大丈夫。全然大丈夫。

私だって、知らないだれかのそんな言葉に勇気づけられてしまったのだった。

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,766件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?