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巴の龍(ともえのりゅう)#10

馬を奪った兵衛(ひょうえ)は、そのまま

東の北燕山(ほくえんさん)に逃げ込んだ。

北東のサライに行くつもりだったが、

サライではまたすぐに葵(あおい)

見つかってしまいそうな気がしたからだ。

しかし、獣道にさしかかり、馬では無理と

悟ると、あきらめて馬は逃がした。

馬と別れて何日かが経過したが、

山道に入りこんだ兵衛は、

行き先を見失っていた。

しかも空腹が襲いかかり、

やがて座り込んでしまった。

ぼんやりと草むらにうずくまっていると、

何かが動く気配がした。

ゆっくりと首を回すと、白い耳が見えた。

うさぎだ!

町育ちで うさぎなど捕えたことのない

兵衛だったが、背に腹は代えられない。

兵衛は気配を消して うさぎに近づいて行った。

うさぎは まだ兵衛に気づいていない。

今だ!

そう思った時、

一閃の矢が 兵衛に向かってきた。

一瞬 ひるがえったが、矢は兵衛の頬をかすり、

ひとすじの血が流れてきた。

そして、矢に驚いたうさぎは

もう 既に姿を消していた。


「いってえなあ!」

兵衛は立ち上がった。

年恰好は兵衛と同じくらいの少年が、

弓を持ったまま、呆然と立っていた。

少年は 言葉もなく 後ずさった。

「人に怪我させといて、

ひと言もないのかよ。

それとも何か、俺を狙ったんじゃ

ないだろうな?」

兵衛は怒りの目を向け、

少年を責めるように近づいて行った。

「いや、その・・・」

少年が口ごもると、兵衛は空腹も手伝って

怒りが抑えられなくなり、いきなり少年の

胸ぐらをつかんだ。

「はっきりしろよ。

その腰に下げているもので勝負をつけようか?

それとも、ただのかざりかよ」

兵衛は ニヤリと笑った。


巴の龍#10

ありがとうございました(●^o^●)


新作駒草ーコマクサー」
かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね


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巴の龍#11に続く
https://note.com/mizukiasuka/n/n680c5733bc07

巴の龍#1 こちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n6785ce9c010e

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