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トンニャン過去編#2 クック

※この物語は「阿修羅王」編・「アスタロト公爵」編の本編であり、さらに昔1970年代に描いたものを、2006年頃に記録のためにPCに打ち込んでデータ化したものです。また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。

幾千億の時を経て、地球に二本足で歩く人間という生物が現れた。彼らはいつしか他の生物の上に君臨し、独自の国家を築いていった。
彼らは一様に火を吹く山を恐れ、その山に若い命を捧げる事で、怒りを鎮めようと考える者達もいた。また、その山に炎に包まれた鳥がいると考える者も現れた。

「クック見て。きれいな湧き水」
湧き上がる泉を見て、村娘オーラは感嘆の声を上げた。オーラは村の長老の孫、生来の明るさからか、村人から慕われる存在だ。
今日、オーラはクックと火の山近くまで来ていた。親の無いクックは、長老に引き取られ、オーラと一緒に育ってきた。
クックにはオーラが眩しかった。日に日に美しくなっていくオーラを見ても、兄同様の自分にはどうする事もできなかった。

オーラは泉の水をすくって喉を潤した。
「私、もう少し先に言ってみるわね」
クックは「すぐ後を追う」と言ってから、自分も水を飲もうと水面に顔を近づけた。
「あ・・・?」
そこには今まで見たこともない美しい少女の姿が映しだされていた。クックは思わず顔を上げ、あたりを見回したが人の姿はない。少し先にオーラの後姿が見えるだけだ。

「気のせいか」
彼が思い直して再び泉の水を飲もうとした。・・・やはり、映っている。
「きみは・・・誰?」
クックが水の中の少女に話しかけた。すると、にわかに水面が揺れて、少女の姿はかき消されてしまった。

「クック、どうしたの?」
なかなか追ってこないクックに、しびれを切らしたオ-ラが戻ってきた。
「え・・・あ、ごめん、オーラ。」
クックは黒髪をかき上げながら、オーラに謝った。そして、オーラの長いくり色の髪を見て、少女の漆黒の髪を思い出した。
長い緑の黒髪の燃える眼をした少女・・・。その時から、クックは少女が忘れられなくなった。

季節は暑い盛り、毎年この時期に村では山の神のために、生贄を送り出す。それは若い娘と決まっていた。人々はそれを占いによって決めていた。そしてその白羽の矢は、事もあろうに長老の孫、オーラに当たったのだ。占い師の老婆は村人を見回し、神のお告げなので従わねばならない、と説いた。

オーラには両親はなく、長老とクックと三人で暮らしていた。そして、この決定は年老いた長老の寿命を縮める結果となった。長老はショックのあまり急逝したのだ。

長老の葬儀が終わった夜、クックは窓から丸い月を眺めていた。突然後ろから腕をまわされ、驚いて振り返るとオーラの潤んだ目がクックを貫いた。オーラはそのままクックの胸に顔をうずめた。
「あなたが好き。私は死ななければならない。一度だけでいい。私をあなたの妻にして・・」
オーラの唇がクックのそれに近づき、触れそうになった。
「オーラ、すまない」

クックは顔を背けた。
「俺は自分の気持ちを偽れない」
クックはオーラから身体を離し、家を飛び出した。
「クック・・・どうして?」
オーラは声を殺して泣いた。

続く

ありがとうございましたm(__)m

トンニャン過去編#2 クック


#3へ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/nfbcab444d90d

#1最初から
https://note.com/mizukiasuka/n/n32aa2f7dc91d

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水月あす薫SIRIUS
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