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祭り(ちょっとSF③)

住吉さんのお祭りに行ったら
必ず福が降りてくるよ


住吉さん どうか会わせてくださいな
もう一度 会えたなら なんでも あげるから

「何をお願いしたの?」
「ひみつ・・・。」

ほんとうは聞き出したい気持ちを抑えて
言葉を呑み込む

「こうちゃんは?」
「俺は・・・早苗といつまでも一緒にいられえるように」
言ってって自分で恥ずかしくなり、浩二は横を向く
早苗はどんな顔をしているんだろう
そっと そっと 振り返る

「早苗?」
早苗は、もう石段を下りて 出店に向かっていた
「早苗」
浩二は駆け出して、早苗の腕を取った
早苗は顔を見せない
振り向かないままだ
「早苗、おまえ・・・。」
浩二は、また言いよどむ
結局 言えないのだ

住吉さんのお祭りは 町の年中行事の中でも
町中の人が楽しみにしている
祭に先駆けて 山車を引いて町中練り歩くのは
勇壮かつ繊細で
引く男たちも 乗る男たちも
そのバランス感覚の見事さに
町中の女が ときめくのだ

浩二は今年も山車を引かなかった
浩二には五つ上の兄がいた
一足先に山車を引き
一足先に山車に乗った
誰もが憧れる 粋な男だった
浩二は 兄のようになりたいと
いつも思っていた
そして 兄の横にいつも寄り添う
美しい影に心惹かれていた

住吉さんのお祭りでいなくなった人は
住吉さんのお祭りに帰ってくる

「早苗」
ぐっと早苗の手を握ると
「痛い」
と早苗が顔をゆがめた
わかってるよ でも
この手を離したくないんだ
絶対 離したくないんだ


兄が山車から落ちたのは
今から五年前
ちょうど今の浩二と同じ年だった
山車に乗って立ち上がり
バランスを取りながら立ち続ける
花形の兄には 出来ないことでは無かったのに


住吉さんの境内で 何台かの山車が集まって
広い境内のまん中で ぐるぐる回っている
土埃で一瞬見えなくなる
早苗・・・
「早苗!?」

早苗と手が離れ浩二はあたりを見回す
土埃の中
早苗・・・

早苗が手を引かれて
走っていく
行くな
行くな
「早苗!行くな!」


住吉さんのお祭りで会えない人に会えたなら
その手にふれてしまったら・・・・


兄の葬儀の後
兄に寄り添っていた人は
悲しみに打ちひしがれて
崩れ落ちそうに泣いていた
その細い肩を抱き止めて
浩二は その人に寄り添ってきた

早苗

浩二は山車に乗らないと決めた
兄を奪った山車には載らない
山車を引くことも無い
生涯寄り添うと決めた人を
二度と泣かせないために

早苗!!


何がいけなかったのか?
何が足りなかったのか?
望んではいけなかったのか?
築いてきた五年間
自分だけの人になったと
信じていたのに!

早苗は帰って来なかった
会えない人に会ったから
誰もがそう ささやいた


浩二の胸の開いた穴
望んではいけなかったこと

あの五年前の あの日
ほんの少し
ほんの少しだけ
振り向いてほしかっただけ

なのに
見てしまった
山車に乗る前の いっとき
兄と その人
あの暑い日の 二人の姿

ほんの少し
ほんの少しだけ
兄を呪ってしまった

住吉さんは知っている
住吉さんは ぜんぶ 見ていた


早苗・・・

浩二の鬼の心
浩二の邪の心


怖かった
望んだことが現実になって
怖かった
次は自分の番ではないかと
だから

二度と山車には近づかなかった


「きゃー!!」


土埃がおさまった後
うずくまる浩二の形相
人々が息を飲む
その姿は


100歳の老人のようであったと

                 終わり 

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祭り ちょっとSF③

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