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トンニャン過去編#7 アン・バスカント(原題「鳳凰」)

※この物語は「阿修羅王」編・「アスタロト公爵」編の本編であり、さらに昔1970年代に描いたものを、2006年頃に記録のためにPCに打ち込んでデータ化したものです。また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。

「やっぱり外で立って食べるアイスクリームはおいしいわ」
ネッドは私をチラッと見ると笑いを浮かべた。
「アン、口のまわりが真っ白だぞ」
「あら、ネッドだって。あ・・ん、これってやわらかすぎ。すぐとけちゃうわ」

「アンに食べられたくなくて、逃げてるんじゃないか?」
「もう!ネッドったら。」
私は両頬をプーッとふくらませた。
 
私達は公園の広場にいた。
中央には噴水があり、家族連れや恋人達がくつろいでいる。
イギリスの夏は短い。年間の日照率自体が大変低い国なのだ。
だからこそ夏の一日は大切だ。えてしてイギリス人が日光浴を好む者が多いのは、この日照率にあるのだろう。
私達は噴水から流れ出る小川のそばに腰を下ろした。
 
「これって作ったのよね?」
「この川の事?もともとあった自然を利用したとも聞いてるけど、噴水は作ったものだろう。ほんとのところはどうなんだろうね」

ネッドはアイスクリームを食べ終えて、小川の水に手を浸している。
「アン、冷たくて気持ちいいよ。ほら、アイスすっかりとけてるじゃないか。もう食べちゃえよ」
「だって・・・。」

私は少しぶつぶつとつぶやいていたが、なんとかアイスクリームを口に押し込んだ。
「やだ。手がべたべたする。ね、口にも付いてる?」
ネッドはポケットからハンカチを出すと私の手の平に置いた。
「川で洗いなよ。口もさっきから真っ白だって言ってるだろう」
「意地悪!」
私が小川で手を洗い、口元を水ですすいでいる間、ネッドはニコニコしながらずっと私を見つめていた。
 
「何よ?」
「何って?」
「ネッドったら、私の事見ながら笑ってたじゃない。私のしてる事、何かおかしい?」
「おかしくなんてないよ。ただ・・・」
「ただ・・・?」
ネッドは口ごもって横を向いた。

時々ネッドは変だ。小さい時から近所で、プライマリースクールも一緒だったけど、最近何か変。
黙って私の事見つめてたと思うと、声をかけてもなかなか返事してくれなかったり。
今だってちょっと聞いてみただけなのに、どうして黙っちゃうの?
 
その時突然の強風が公園全体を襲った。
そして噴水のふちを歩いていた小さな子どもが、噴水に落ちてゆくのが見えた。
近くにいた親が悲鳴を上げる。と同時に隣にいたネッドが噴水に飛び込んだ。

もちろん、そんなに深い噴水ではない。
いつもなら足だけつけて遊ぶような浅さだ。だが、子どもにはどうだろう。私も急いで噴水のふちに行くと、ネッドが立ち上がって泣き叫ぶ子どもを抱き上げていた。

ネッドは子どもを親に手渡すと頭をかきながら笑った。
「暑いからちょうど良かったよ。慌ててずぶ濡れになっちゃったけどね」
私は靴を脱いで噴水の中に入った。
「そうね、中に入った方が気持ちいいわ。それ!」
ネッドに水をかけると、ネッドも私にかけてきた。私達はすっかりはしゃいで水をかけあった。

続く
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トンニャン過去編#7 アン・バスカント(原題「鳳凰」)


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