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アスタロト公爵#9悪魔の君主アスタロト公爵

※この物語は 「阿修羅王」本編より 悪魔の三大実力者のひとり、アスタロト公爵の作品を抜粋しています。特定の宗教とは 何の関係も無いフィクションです。

アスタロトは何杯目かのローズティーに口をつけながら、小さく笑った。
「おまえも食えない奴だな」
「お互いにな」
そう言うとアスタロトは、トンニャンとローズティーのティーカップをカチンと合わせて乾杯した。

「天使だった時の事を覚えているか?」
「もう忘れた。遠い昔だ」
「嘘をつくのはへただな」
アスタロトは答えず、遠い目をしている。
「ベールゼブブには未練はないのか?彼は天使だった時・・・」
「奴の話はするな!」


アスタロトが夫・ベールゼブブと天を追われ地に落ちた時、
叩きつけられた体もいとわず、彼女は夫の姿を探した。
ところが、一緒に落ちてきたのは巨大なハエだった。
アスタロトが恐怖で思わず身を引くと、自分の胸に手がふれた。
「馬鹿な・・・そんな事が・・・。では、このハエは・・・」

何が二人をそうさせたのだろう。これが堕天使となった二人への罰なのか?女神であったアスタロトの体は、男になっていた。
そして、隣に転がっている不気味で巨大なハエこそ、夫のベールゼブブであった。

ハエはゆっくりと体を起こすと、アスタロトに目を向けた。
「おまえは誰だ?」
アスタロトは驚愕した。
ベールゼブブは記憶を失い、男の姿になってしまったとはいえ、かつて自分の妻だったアスタロトを覚えていなかったのだ。

「わたしは・・・わたしはアスタロト。悪魔の君主・アスタロト公爵」
どうしてか、するすると言葉が出てきた。
「ほう、アスタロト公爵か。わたしはベールゼブブ、ハエの魔王だ」
ベールゼブブはその羽を羽ばたかせ宙に浮かんだ。

「アスタロト公爵、覚えておこう。いずれ、いずれそのうち・・」
アスタロトはベールゼブブの去った空をいつまでも見つめていた。
この何もわからない魔界で、たった一人、どうして生きてゆくのだろう。
アスタロトにはもう夫は無く、女ですらない。

その時天を覆うほどの大きなドラゴンが現れ、アスタロトにかしずくように降りて来た。
「アスタロト様、お乗り下さい。わたしはあなたの僕(しもべ)。
何なりとおおせ付けを」
アスタロトはおそるおそるドラゴンに手を伸ばし、その硬いうろこにふれた。
その瞬間アスタロトの体に電流が走り、黒い衣装をまとい、長い黒髪の美しい悪魔が誕生した。


「悪魔になってからのおまえは、魔女となく人間となく、いや、天使にまで手を付けて堕天使にしてしまい、今までどれ程の女達を不幸にしてきたか」
「ふん。たった一度でもいい、と懇願してくるのは相手の方だ。
だが、女は一度相手をすると、必ず女房気取りになる。
あれは悪魔も天使も人間も同じだな」

「一人だけ、そうではない女がいるだろう」
「な・・・何の事だ」
アスタロトは急に落ち着かない様子になって、またローズティーを口にした。
「何も望まず、ただ傍にいて、おまえの為だけにつくし、
たとえ振り向いてもらえなくても、
ひたすらおまえだけを想い続けている女が、一人だけいるだろう」

ありがとうございましたm(__)m

アスタロト公爵#9悪魔の君主アスタロト公爵


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