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トンニャン過去編#8 アン・バスカント(原題「鳳凰」)

※この物語は「阿修羅王」編・「アスタロト公爵」編の本編であり、さらに昔1970年代に描いたものを、2006年頃に記録のためにPCに打ち込んでデータ化したものです。また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。

「アンも濡れちゃったね。」
「平気。すぐ乾くわ。」
私は肩で息をしながら、噴水から出た。
「ネッドも出なさいよ。風邪ひくわよ。」
振り向いた私の眼にネッドの姿が歪んで見えた。いや、違う。歪んでるのはネッドじゃない。く・う・か・ん?
 
噴水の水が滝のように噴きあがっている。
ネッドはどこ?
どうしたのだろう。

まだ昼をまわったばかりなのに、太陽が隠れ、あたりが暗闇に飲みこまれて、人々が次々に倒れていく。

ネッドはどこ?
その時夜のような空に炎に包まれた鳥が現れた。
それは本で見た鳳凰やフェニックスと呼ばれているものに似ていた。
私の記憶はそこで途切れた。
 
 
「ネッド!」
そう叫んで私は飛び起きた。
いつのまにかベッドに寝かされ、まわりには同じような白いベッドに横たわる人々がいた。

「驚いたでしょう?あの公園だけ強風が吹いた後、急に公園にいた人達が倒れたのよ。原因はわからないの。毒ガスかもしれないなんていわれ・・・」
話しかけてくれた看護師の言葉が終わらぬうちに私はベッドから飛び降りた。

「ネッドは?ネッドはどこ?」
「待って。あなたはまだ完全に回復したわけじゃ・・・」
「一緒にいた男の子、同級生なの。噴水の中にいなかった?」

看護師は首をひねった。
「噴水?倒れた人は全員病院に担ぎ込まれたはずだけど。友達なの?」
私が何度もうなずく。
「わかったわ。調べるから少し待っていて」
 
看護師に言われて待つ間、私はとても落ち着いてはいられなかった。
あの歪んだ空間は何?
噴き上がった噴水の中で、ネッドは無事なの?
ただ不安が胸をしめつけた。
 
「ネッド・グラウンド、十二歳よね?」
しばらくして看護師が戻ってくると、確かめるようにもう一度私に尋ねた。私はまたうなずく。
「おかしいわね。同じ年頃の少年はどこにもいないのよ」

今度こそ私はベッドから降りた。
もう止めてもきかなかった。
私は病院を飛び出し、真っ直ぐにあの公園の広場の噴水に向かって走っていた。
 
 
公園はすっかり日が暮れて夜になっていた。
広場に着くと、私はためらう事なく噴水のふちに手をかけ、中をのぞいた。
ない。
水がない。ネッドは?

突然光が差し込んだ。月の光なのか?いや・・・。
「鳳凰・・・!」
燃える炎の鳥が噴水の真上を旋回するように飛んでいる。
やがて鳥は炎そのものになった。
そしてその炎の上空が縦に裂けて、空間が割れ始めた。

何が起こっているのだろう。
その空間の割れ目からは何やらおぞましい、光とも闇ともつかぬものがグルグル回っているのが見えた。

炎は少しずつ小さくなり、スッと目の前に降りて来た。

続く
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トンニャン過去編#8 アン・バスカント(原題「鳳凰」)


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#9へ続く
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