元祖 巴の龍#83
それから二人の弟を見つめた。
「おまえたちとは兄弟とはいえ、まだ一年にも満たないつきあいだ。
だが、幼い頃より三つ口定継を倒し、新城を奪い返すことだけ考えて来たわたしが、同じ目的を持つ兄弟に出逢えたことで、どれほど心強く思えたことか。
たったひとり、不安にさいなまれることもあったのが、どれほど安堵したか、言葉では計り知れない。
まず、おまえたちに礼を言いたい。ありがとう」
兵衛が頭を下げると、大悟も菊之介も驚いて口々に言い始めた。
「兄上に比べ、俺はただ自由に生きて来た。親父は追手のことは言っていたが、家のことや、新城のことで俺に何か期待をしなかった。
そのおかげで好きに生きられた。同じ兄弟でありながら、何もかも兄上に背負わせて、申し訳ない。
それにもうひとつ、芹乃のことでは殴ったりしてすまなかった。俺は短気なところがあっていかん。兄上、俺こそ兄上に会えて嬉しかった」
大悟の次は菊之介だった。
「私は女として育てられ、明日をもしれぬ不安の中で育ちました。
まさか、可愛がってもらった定継を討ちことになるとは、考えてもいないことでした。
この二年いろいろありましたが、大悟兄上との旅は楽しいものでした。
そして兵衛兄上や父上とも会えて、もう思い残すことはありません。
この上はこの命に代えても母の仇を取り、この国を守ってみせましょう」
それぞれの胸の内を語ると、兵衛は微笑んだ。
「では参ろうか。いざ龍王(ロンワン)へ」
兵衛の操る小船は、いっとき程かかって龍王の島にたどり着いた。
ロンワンは小さな島で岩だらけでとても人が住めるような場所ではなかった。
ゴツゴツした岩をつたって行くと、島の中ほどに洞窟が見えた。
菊之介たちは島中を見廻したが、ほかに何も見つからず、洞窟の中に入ってみることにした。
洞窟の中は殊のほか広く、鍾乳洞のようになっており、かなり奥深いようだった。菊之介たちが注意深く進んでいくと、広い場所に出た。
そこは水が溜まって泉のようになっており、光苔のせいか明るくなっていた。
その泉の奥に小島があり、そこに翼のある龍の姿を認めた。
三人が泉に近づくと、龍は振り返り、翼を広げて飛んできた。
「よくここまで来たな。ほめてつかわす」
続く
ありがとうございましたm(__)m
「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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