見出し画像

巴の龍#4

「敵か?」

今度は丈之介(じょうのすけ)が首を振る。

「気を失っているようだ。

寝かせてやりたいが、こう泥だらけではな」

丈之介は 大悟(だいご)をチラリと見た。

「わしが着替えさせる。後ろを向いてろ」

大悟がけげんそうな顔をした。

「女だ。見たことがないのだから、

わからないのも無理はないが。

おまえとそう変わらん年だろうが、

おまえは見てはならん。」

丈之介に言われて、大悟は後ろを向いてすわった。

父にそむくつもりはさらさらないが、

何故見てはいけないのか、

それすら大悟にはわからない。

だが、当の丈之介にはさらに驚きが待っていた。

大悟・・・しばらくそうしていろ。

決して見るなよ」

大悟はイラついていた。

人ひとり着替えさせるのに、

どれほど時間がかかるというのだ。

丈之介は何をしているのだろう。

「おやじ、もういいか?」

大悟が待ちかねて声を上げた。

「あ・・・あぁ、もう振り向いてもいいぞ」

丈之介の声はふるえているようだった。

大悟がくるりときびすを かえすと、

もう 既に着替え終わり、布団に寝かされていた。

大悟がのぞきこむと、髪も顔も泥がぬぐわれて、

白く透き通った肌に うす桃色の頬が

つやつやと光っている。

大悟は少女の輝きに 目を奪われた。

「美しいか。」

丈之介が ぽつりと言った。

大悟は自分自身が耳まで赤くなるのを感じた。

心臓の鼓動が速くなり、妙に落ち着かない。

初めて味わう 甘やかな感覚だった。

「わしの息子だな、おまえは」

何を言われたのか、
わからないまま丈之介の方を見る。

「そっくりなんだ、この娘。

おまえの母親の桔梗(ききょう)に

遠くで雷鳴が鳴った。

また雨になりそうだ。


巴の龍 #4

ありがとうございましたm(__)m


最新作駒草ーコマクサー」
かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね


[SIRIUSの小箱」ってなあに?
過去出版作品・今までのメルマガ・HP/リザストに掲載、こちらから

巴の龍(ともえのりゅう)#5へ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/n3942297c99ef

巴の龍#1 こちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n6785ce9c010e

もしよろしければ、サポートしていただけると嬉しいです。いつも最後までお読みいただき、ありがとうございますm(__)m(*^_^*)