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巴の龍 #5

夜を日に継いで、兵衛(ひょうえ)

甘露(かんろ)の国に近づこうとしていた。

いくつかの峠や小山を抜けながら、

少しでも早く 少しでも遠く 来良(らいら)の国から

離れたかった。

海に囲まれた来良の国は 他国の者も出入りする

華やかな街だったが、今向かっている東の甘露の町

その影響が少なからずある。

甘露の国の北東に サライという他国民が多く住む土地があり、

港には常に異国の船が停泊しているらしい。

樹林川(じゅりんがわ)の海の注ぎ口にある甘露の町は、

そのサライの町来良の国中継地点になっていた。

兵衛は 甘露からサライに抜けるつもりでいた。

この国にいる以上 涼原(すずはら)の名から

逃れることはできない。

あわよくば 他国の船にもぐりこめないか、

と考えていた。

もちろん 来良で その機会がないわけではない。

しかし、サライに比べ 幾度も巡ってくるわけではないし、

まして 洸綱(たけつな)や葵(あおい)の目を盗んで・・・というのは

ただの 家出と違って かなり難しい。

兵衛は 一週間かかるところを

ほぼ三日で走りぬけ、甘露の町に入った。

来良に比べると少し小さいようだが、

来良とサライを行き来する人々が多いせいか

商業がよく発達し、道行く人の肌の色、言葉も

多種多様で、来良によく似た町だと感じた。

兵衛が あてもなく町をながめながら

歩いていた時だ。

後ろから いきなり抱きついてきた者がいた。

驚いて顔を横に向けると 今度は

首にからみついて、頬をよせてきた。

?!」

は 後ろから兵衛の首に抱きついたまま、

横目でギロリとにらんだ。

「つかまえた。離さない」

兵衛は背筋に冷たいものが流れていくのを感じた。

「離せよ!」

それでも渾身の力でをふりほどくと、

ゆがんだ着物を整えるふりをして

心を落ち着かせようとした。

巴の龍 #5

ありがとうございましたm(__)m

最新作駒草ーコマクサー」
かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね


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巴の龍(ともえのりゅう)#6に続く
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https://note.com/mizukiasuka/n/n6785ce9c010e

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