元祖 巴の龍#29
大悟はロンの家の前に立った時、異様な殺気を感じた。これは尋常ではない、と大悟の全身が叫んでいる。
大悟は静かに土産物を置くと、すうっと太刀を抜き、戸口に体をはわせた。そしてそっと中を覗いた。
かつて、これほどの殺戮の場を見たことがあったろうか。家中、血で染まっていて、すでに事切れた死体が数体転がっている。
大悟は我が目を疑った。
その血まみれた死体に、いつまでも斬りつけているのは、あの菊之介ではないか。大悟は飛び出して菊之介の体を抑えつけた。
「菊之介、もう死んでおる。もう死んでおるではないか」
大悟が声をかけても菊之介は返事をしない。
「やめるのだ、菊之介。やめろ!」
大悟は無理やり菊之介から太刀をもぎ取った。菊之介はそのまま気を失って倒れた。
大悟は菊之介を受け止めると、ゆっくりと周りを見回した。無残に斬り殺された数人の男たち。そしてロンと母親の遺体もあった。
大悟はここで起こったことのすべてを、瞬時に理解したのだ。
大悟は菊之介を土間に寝かせると死体の始末にかかった。まず男たちの死体を裏庭に埋めた。
つぎに、ロンと母親を庭に丁重に葬った。
そして家の中の血しぶきを丁寧にふき取り、最後に菊之介の体から血を拭き取って、家の中に寝かせた。
朝方までかかってそれをやり終えると、にわかに疲れがおきてその場に倒れ、泥のように眠った。
大悟が目覚めた時、もう日は高かった。見ると菊之介がいない。大悟は家を飛び出した。
家の周りを探し、さらによく菊之介とロンの母親が水汲みに行っていた川に行ってみた。
しかして菊之介は裸になり、川に入っていた。
大悟は着物を着たまま、ずぶずぶと川に入って行き、菊之介を抱きとめた。菊之介はうつろな目で大悟を見ると
「兄上」
と初めて口をきいた。
「ロンが、マーマが、殺されました」
大悟はうんうんとうなずいた。
「わたしがあの家の世話にならなければ、ロンにカンフーを教えてくれなどと言わなければ、ロンもマーマも死ぬことはなかった。
わたしがロンとマーマを殺したのだ」
続く
ありがとうございましたm(__)m
「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ
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