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短編小説、物語いろいろ

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「巴の龍(ともえのりゅう)」「love's nigt」「ある独白(我が永遠の鉄腕アトムに捧ぐ)」「カオル」「甲斐くんの憂鬱」続々増えるよ
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2021年9月の記事一覧

カオル #1

晃二の家にカオルがやってきたのは、 もう一年ほど前になろうか。 ある日突然 父がカオルを連れて 帰って来た。 その日は雨が降っていて、 玄関先でたたずむカオルは心なしか髪が濡れて すねたような横顔は、びっくりするほど 美しかった。 当時受験生だった晃二は、 戸惑いながらも父とカオルを中に入れた。 リビングのソファーに座ると父は 「今日から一緒に暮らす。」 と言い、晃二をますます混乱させた。 いったい何が起こったというのか。 母が亡くなって十年余り、

カオル #2

カオルがやって来たばかりの頃、 カオルの前では ついドギマギしたり、 しどろもどろになったり、 頭で男とわかっていながら なかなか すぐには信じられなかった。 洗面所で、偶然風呂上りの カオルの裸を見る機会があったとしても、 その体が どう見ても自分と同じ構造であることを 目の当たりにしても、 それでもカオルの顔を見ると どうしても男とは認識できなかった。 おかげで受験は散々だった。 第一志望の高校を落ちて、 すでに第二志望の高校も落ちていたので

カオル #3

「わかったよ、やっぱ似合わね~よな。」 女装のまま、カオルはいつもの口調にもどった。 「ま、この格好は趣味っていうか、ストレス解消かな。 一回やってみたら、おもしろくなってさ。 でも、なんでだろうな。 こうしてると、いつのまにかオネエ言葉になるんだよなぁ。 杉原さんのことも、名前で呼びたくなってさ。」 言葉がもどっても、晃二はドキドキしたままだ。 いや、女装してなくたって、 いつもカオルにときめいていた。 はじめて会ったときから・・・。 「杉原さんは晃二

カオル #4

「晃二ってこうやって見ると 杉原さんによく似てるよな。 やっぱり 親子だな。」 カオルがこう言いながら晃二の顔を見つめるのは、 珍しいことではなかった。 時々 ふとまじめな顔をしながら、 しげしげと見続けるのだ。 たぶん、はじめてこの家に来た時から 何かにつけて晃二を見つめ、 そして必ず、父に似ている、と繰り返すのだ。 父に気があるのだろうか。 晃二はそのたび、そう思った。 だからこそ、二人の関係をつい 疑いたくなる。 いったい何の関係もないカオルを

カオル#5

最初晃二はカオルに遠慮がちだった。 まるきりの他人が急に一緒の暮らし始めたのだから すぐうちとけられるはずがない。 まして二人は初対面。 晃二にとっても理由を知らされずに 同居人が増えたのだから、 どう対処して良いのかわからなくて当たり前だ。 だが意に反して、カオルはくったくがなかった。 初めから晃二を『コージ』と呼び、自分のことも 『カオルでいい』と言った。 年は晃二より四つ年上で、 高校を卒業したばかりだった。 カオルの前で上がってしまうのは一年た