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そぼ降る雨が少女の体を容赦なく濡らしていた。 北燕山(ほくえんさん)の奥深く、 人も通わぬ 獣道で、少女は泥にまみれ 着物をひきずるようにして歩いていた。 杉木立が生い茂り、遠く近く 獣の鳴く声が響いてくる。 少女は足を止めず、ひたすら歩く。 よく見ると着物は ところどころ破け 長い髪も雨に濡れて 顔にべたりとはりつき そして その顔を見た者は 誰もが生気のなさに驚くだろう。 雷鳴がとどろいても 少女は足を止めない。 少女の視線が稲光をとらえた。 「
手紙は兄のように育った兵衛(ひょうえ)が 書いたものだ。 葵(あおい)が半分ほど読み終える頃、 洸綱(たけつな)は へなへなと座り込んでいた。 床に手をつき 目もうつろだ。 葵はかまわず読みすすみ、最後まで読み終えると 手紙を床に 叩きつけた。 そのしぐさに 思わず顔をあげる洸綱。 「父上、こんなこと書かれて黙ってるおつもりですか?」 葵の声は怒りにふるえている。 その様子に洸綱は ゴクリとつばを飲み込んだ。 「ふざけるんじゃないよ。 長々育ててもらっ
ドサッ! 弓に射抜かれた山鳥が 止まり木から落ちた。 北燕山(ほくえんさん)は 昨日の雨が嘘のように晴れ渡っている。 まさに狩り日和。 この山の奥に住んでいる大悟(だいご)は、 変わりやすい山の天気に嫌というほど 悩まされてきた。 雨や雪が続くと、父と二人じっとして空腹に耐える。 瓶(かめ)の水が底をつき、雨水や雪で飢えをしのぐ。 だからこそ、晴れた日は少しでも獲物をとり、 干物などにして保存しておく。 今日は父も樹林川(じゅりんがわ)に行っているはず
「敵か?」 今度は丈之介(じょうのすけ)が首を振る。 「気を失っているようだ。 寝かせてやりたいが、こう泥だらけではな」 丈之介は 大悟(だいご)をチラリと見た。 「わしが着替えさせる。後ろを向いてろ」 大悟がけげんそうな顔をした。 「女だ。見たことがないのだから、 わからないのも無理はないが。 おまえとそう変わらん年だろうが、 おまえは見てはならん。」 丈之介に言われて、大悟は後ろを向いてすわった。 父にそむくつもりはさらさらないが、 何故見てはい