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人工生命もDX化?ウェットALIFEのDX化から生まれた「生体ロボット」

2022年7月18日〜22日に人工生命の国際会議「International Conference on Artificial Life 2022(ALIFE 2022)」がオンラインで開催されました。

発表された全ての論文はこちらの会議録で公開されています。弊研究室からも2つの研究発表を行いました。日本時間の午後4時から夜中の1時での開催だったため、なかなか全ての発表をリアルタイムで聞くことはできなかったのですが、非常に盛り上がった会議となりました。

今回の記事では、ALIFE2022のPaper Awardに輝いたXenobotの研究について紹介します。

Xenobot(ゼノボット)とは

人工生命の研究では、コンピュータのプログラムを使う「ソフト」、ロボットなどを使う「ハード」、そして化学反応を使う「ウェット」と大きく3つの分野があります。これまで独立して研究を進められることが多かったそれぞれの分野ですが、最近になってこれらの分野が融合することで、面白い研究成果につながっています。

今回紹介するXenobot(ゼノボット)もそのひとつで、ソフトとウェットが融合したものです。ウェットの研究がソフトと融合することで「DX化」したとも捉えられます。

Xenobotとは、アフリカツメガエルの細胞(外胚葉)を組み合わせて作られた「生体ロボット」です。このロボットは、自律的に歩いたり、モノを運んだり、自己複製することができます。バーモント大学のロボット研究者 Josh Bongardと、タフツ大学の生物学者Micheal Levinらの研究グループによって開発されました。

Xenobotの驚くべき特徴は、アフリカツノガエルの細胞を組み合わせるだけで、動いたり、自己複製したりする機能が実現されていることです。遺伝子組み換えなどの操作は一切加わっていません。アフリカツノガエルの外胚葉を一旦バラバラにして、それをうまく再構成してあげると、動いたり、はたまた自己複製したりするものが出てくるというのです。

ソフトウェアによるウェットALIFEのDX化

もちろん細胞をランダムに組み合わせているだけでは、なかなか思うような動きをする生体ロボットは出てきません。そこで重要になってくるのが、細胞をどう組み合わせるかです。ここでソフトウェアの出番です。細胞の組み合わせ方を進化アルゴリズムを使って数千あるいは数万にもおよぶバリエーションを試し、シミュレーション環境で動きを確認するのです。

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1910837117#fig01 より引用

すると、たくさんの組み合わせの中から目的の動きを実現する細胞の組み合わせが見つかったのです。その組み合わせ通りに細胞を組み上げ、ペトリ皿の中での動きを観察してみたところ、ビデオの中のような動きが確認されたというわけです。

自律的に動くことができたり、モノを運んだりすることができるXenobotのような生体ロボットは、生きている細胞から作られているため、活動が終わると生分解されます。そのため、人体や環境への負荷が低いというメリットがあります。こうした特徴を活かして、たとえば、人体内の患部に薬を運んだり、血管内に蓄積された老廃物を取り除いて動脈硬化を防ぐといった応用が期待されています。

シミュレーション環境のみで動く仮想生物や化学反応は、ALIFE研究の中でこれまでにもさまざまに提案されていましたが、実際の細胞で動く生体ロボットを作り出したという成果が評価され、Paper Awardの受賞につながりました。

ソフトウェアによるハードALIFEのDX化

ソフト、ハード、ウェットという3つの分野から構成される人工生命の研究。これらの分野が融合することによってそのポテンシャルが発揮されてきている研究はXenobotだけではありません。ソフトとハードの融合によって途中で故障しても残った部品だけで歩ける方法を瞬時に獲得する適応的なロボットも実現されています。ソフトウェアによるハードALIFEのDX化と捉えることができそうです。

たとえば、次の動画で紹介されているロボットは、歩いている途中で脚が故障しても、残った脚のみで歩く方法を瞬時に獲得することが適応的なロボットです。

故障したときに歩き方を一から学ぶのではなく、残された脚のみを使って再び歩き出す様子は、本物の動物を彷彿されます。

実世界でロボットを動かしていると故障することは良くあります。そこで脚が故障しても残りの脚のみで歩く方法を、シミュレーション環境で事前に学習しておくのです。そうすることで、実際に脚が壊れても、これまでにシミュレーションした中から現状に最も近い状態を探し、そこから実世界での動きをフィードバックさせることで、ほんの1分程度で、残った脚のみで歩けるようになるのです。

わたしたちが脚を捻挫したり、骨折したりしても、それまでの経験から直感に基づいて身体を動かし、脚を引きずったり、体重を移動させたりして、その場をしのぐことができます。同じように、コンピュータで多様な動作のレパートリーをロボットに持たせることで、故障にも対応できる適応的なロボットを実現しているのです。


さて、今回の記事では、ソフトとウェットの人工生命研究の融合からうまれた「Xenobot」、そしてソフトとハードの融合からうまれた「適応的なロボット」を紹介しました。ソフト、ハード、ウェット、それぞれ独立して研究されてきた人工生命の研究がつながることで、実世界での有用性が示されてきています。

詳細に興味のある方は、ぜひそれぞれの論文にも目を通してみてください。

Xenobotに関する論文

適応的なロボットに関する論文

最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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