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生命のパターンを作り出す「チューリングパターン」の新たな展開

みなさん、こんにちは。ALIFE研究者の岡瑞起です。

今日は、前回の研究室ゼミの論文紹介コーナーで取り上げられた「生命のパターン」をつくりだす反応拡散系というモデルに関する論文について紹介したいと思います。2021年に開催されたALIFEの国際会議 ALIFE 2021で発表された「Differentiable Programming of Reaction-Diffusion Patterns」という論文です。

熱帯魚のストライプ、蝶の羽、シマウマの縞模様、ヒョウの柄模様。自然には誰かがデザインしたわけでもなく出現した美しい「生命のパターン」で溢れています。多様なパターンが生命の発生過程で、細胞同士が局所的な相互作用を通して自己組織化して作られるのです。

誰かがトップダウンにデザインしているのではないとしたら、どのように生命のパターンはつくられているのか?その謎を解明し、パターン生成の原理を数学的にはじめて記述したのが、アラン・チューリングです。映画『イミテーション・ゲーム』の中でも描かれているように、解読不可能と言われたドイツ軍の暗号に挑んだ天才数学者として知られている人物です。

映画の中でも描かれているように、チューリングはコンピュータの概念を発明した人として知られていますが、生物のパターン形成に関する研究も行っています。「The Chemical Basis of Morphogenesis(形態形成の化学的原理)」という論文の中で、生物のパターン形成はモルフォゲン(morphogens)という化学物質のシステムで制御できることを提唱し、物質の反応(Reaction)と拡散(Diffusion)の相互作用によって自然界に存在するさまざまなパターンを作り出すことができることを示したのです。反応拡散系によって作られるパターンは「チューリングパターン」と呼ばれています。

チューリングが、反応拡散系を提唱した当時は広く受けいれられることはなかったのですが、今日では実際に多様なパターンを作り出せることが数々の研究によって示されています(Kondo and Miura, 2010; Landge et al., 2019)。

たとえば、反応拡散系を使うとたった2つの物質の相互作用(Gray-Scott方程式といいます)からでも、次のようなとても多様なパターンを生み出すことができます。

スポットパターン
非結晶パターン
泡パターン

反応拡散系の詳細は、次の動画で説明していますので興味のある人は見てみてください。数学に慣れていない人は、いきなり複雑な式が出てきてゲッソリしているかもしれないですが、順を追ってみていくことで以外と簡単に理解できると思います。

さまざまなパターンを作り出せる反応拡散系ですが、どのようなパターンが生み出されるかは、方程式のパラメーターをいろいろ変えてみてプログラムを走らせてみることが必要です。たとえば、熱帯魚のストライプのような模様を作りたいなと思った場合は、さまざまなパラメーターの組み合わせを試して、欲しいパターンを探さないといけませんでした。

ALIFE 2021で発表された論文「Differentiable Programming of Reaction-Diffusion Patterns」は、反応拡散系のパラメーター探索を自動化するモデルを提案したものです。たとえば、次の動画は、たくさんのトカゲのようなパターンを作り出すように、パラメーターが自動的に学習されていく様子を示しています。

もちろんトカゲのようなパターンだけでなく、縞模様やドット模様、さまざまなパターンを自動的に生成することができます。

Mordvintsev et al. Differentiable Programming of Reaction-Diffusion Patterns, ALIFE 2021, Fig.2より引用

反応拡散系をパターン生成につかうことで、たとえば、上記のような2次元平面で学習したモデルを、拡張演算子を3次元に置き換えるだけで、3次元の物体のテクスチャを作り出すこともできてしまいます。

これまで試行錯誤的なパラメータ探索が必要だった反応拡散系は、パターンを作り出すためのツールとしては使いにくいものだったかもしれません。しかしながら、欲しいパターンを作り出すパラメーターを自動的に作り出せるようになったことで、応用の幅が広がることが期待されます。

チューリングによって反応拡散系が提案されたのが1952年。それから2年後の1954年に41歳の若さで、チューリングは惜しくも亡くなってしまいましたが、それから70年近くも経った今でも反応拡散方程式の研究が脈々と続き、実用的なツールとしての展開を見せていることに感動させてくれる。そんな論文です。

今回は生命のパターンを作り出す反応拡散系に関する最新の論文を紹介せていただきました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。ciao!


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