夕暮れ

 いつもとは反対側の無人改札の横にある駐車場。下校時刻を過ぎて学校を追い出された私たち12人のいるあたりは、ちょうど跨線橋の陰になっていて、ホームからは見えないはずだ。

 低い山の端ともうすぐくっつきそうになっている太陽は、丸い輪郭がくっきりとしていて、オレンジ色の四角い光が私の目をまっすぐに射している。太陽を背に立つ同じワンピースの4人はすっかり焦茶色のシルエットになっていて、身長と髪型でしか区別がつかない。

「はい、じゃあさくっと続きやろ。明日も朝早いし」

 影のひとつからよく知った声がこぼれ出る。足元の鞄から台本とペンケースを取り出そうと身をかがめると、フェンスの隙間から飛び出した雑草たちに背中をくすぐられた。

「シーン13からだよね?」

「あれ?12の終わりって結局どうするんだっけ」

 コピー用紙をホチキスで止めただけの台本は、何度も丸められてくにゃくにゃになっている。開いたページの余白は赤い文字で溢れていたので、少し考えて3色ボールペンの青を出す。

「暗転5秒で机もってハケるの、間に合ってなかったよね?」

「ここって完全暗転じゃなきゃダメなんだっけ」

「次のシーン、場所変わるしなぁ。できれば真っ暗の方が良いと思う」

「薄暗くしてBGM入れるのはどう?無音よりは切り替わるよ。それだったらわたし今夜中に曲探す」

「でもそしたら明日の朝までにCDも焼かないと」

「あ、そっか・・・」

 遠くから虫の声が始まったような気がする。ついさっきまでそこにいた太陽はもうすっかり隠れてしまっていて、今はただ白い光だけが輝いている。

「ねぇ。このシーンって、机要るかな?」

「・・・なるほど?」

「カッキー的にはあった方が良いんだよなぁ。いや、でも、無しでもいけるか・・・?」

「響子さんは?」

「響子さんは自分の椅子があれば大丈夫」

「そっかー。じゃあカッキー次第?」

 ここに来てから10分おきに何本目かの電車がやって来て、自宅に帰る人々を吐き出していく。そのうち何人かは改札口からすたすたとこの駐車場にやってきて、車や原付に乗り込んではエンジン音を響かせて去って行く。

「オッケー、これで終わり!」

「よっしゃ、明日がんばろー」

「チャーリー寝坊すんなよ!」

「いやまじで起きれるかな私。誰か朝電話して?」

 明日の今ごろは同じオレンジの空の下、大荷物を抱えてゆっくり上がるであろう階段を、今日は思い切り駆け上がる。後ろからそれぞれのおしゃべりが聞こえる。踊り場で振り返った私は、はしゃいだ声を出してみんなに手を振った。

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