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#170 白いポピーと母国への想いなど


前回はイギリスのリメンブランスデー (Remembrance day) にまつわるお話でした。この時期はイギリス中がポピーで包まれる感じです。

街中でも会社でも学校でも、寄付をしてポピーを受け取ります

上の記事の中で言い忘れていましたが、なぜ赤いポピーが戦争で命を落とした兵士たちへの追悼の象徴になったのでしょう?
第一次世界大戦中に、多くの犠牲者が出したベルギーのフランダース地方の戦場にポピーの花がたくさん咲いていたのと、赤が飛び散った血の色を思わせることが理由だといわれています。
そして、見る影もないほど無残に荒れ、二度と元には戻らないだろうと思われた戦場の野原に、翌年一面にポピーが咲き誇った光景が人々に希望と平和への象徴として映ったというお話、これが私は好きです。


実はこの記事を書くにあたり、夫や息子ともいろんな話をしました。
それは、「なぜ私がこの季節になると気持ちが複雑に乱れるのか」ということ。
イギリスに住んで23年、子どもたちが学校でポピーを買うお金を持たせ準備はしても、自分がポピーを身に着けることに一抹の抵抗がなかったとは言えないのです。外出すればほとんどの人が胸に着けていますが、この国では同調圧力というのはありません。ただ私が勝手に右に倣えをしなければならない気はしていました。
なぜならこの時期ポピーを身に着けることが「愛国心の表明」のように感じられるから‥‥

私は戦争を知らないけれども、日本が第二次世界大戦に参戦したことによって国民がどれだけの辛酸をなめたか、それをまだまだ語れる世代とともに生きてきました。
同時に、本来正しく学ぶべきであった近代史を教えられたような気がしていません。
34年前初めてイギリスに来て、他のヨーロッパの学生たちと一緒に英会話を学んだ際の衝撃は忘れられません。先生がディスカッションの時間にこんな質問をしました。
「20世紀における三大〈大量虐殺者〉は誰か?」
ヒットラー、スターリンと並んで生徒たちが口々に挙げたのが「ヒロヒト」。それが他国、少なくともあの場に居た学生たちにとっての常識だったのです。
外国で暮らすうち、そもそも真珠湾を攻撃し第二次世界大戦に参戦した日本に責任のあること、原子力爆弾は戦争を終結させるための「必要悪」だったというのが世論であることも肌で感じてきます。
日本が世界唯一の核爆弾の被害国であることに被害者意識を抱いていたのは日本人だけだったのか‥‥とまた衝撃を受けました。
何が正しくて正しくないかではなく、立場が変われば認識も変わることを知りました。
私はそんな母国から反対側の海の上の国に生きています。
英国の軍隊には感謝と敬意を持っていますが、過去に起きたことにまで感謝することはやっぱりできないです。

イギリスでは軍が国のために戦って勝利したからこそ、亡くなった方々を含めて英雄として感謝とともに称えられているように思えるのです。
日本は敗戦国だから私はひがんでいるの‥‥?
そんなふうにわけのわからないモヤモヤをどう説明すればいいのかわからなかったのです。

我が家の食卓での会話はこんなふうでした。

私「ポピーアピールの時期は国を挙げて軍隊や戦って国を守ってくれた人たちに感謝を示すでしょ。不必要に英雄化してるっていうか‥‥。それは戦勝が根底にあるからだよね?」

夫「英雄化しているわけでも称えているわけでもないよ。今の平和があることへの感謝だよ。実際、徴兵制のある国*があるだろう。僕はそんな国に生まれなくてよかったと思ってる。この国で志願して国を守ってくれている人たちに感謝しないではいられない。家族だってどんなに複雑な想いで生活していることか‥‥」 *(世界196か国の中で現在60か国以上で徴兵制が取り入れられています。韓国やスイス、ノルウェーなど)

次男「いや、俺も実はポピーアピールはちょっと複雑。そんなに必要で大切なサポートならば、100年もこんなチャリティー任せにし続ける英国政府はおかしいだろ。政治がしなければならないことをもっと国民が声をあげて要求するべきなのにポピーという善意で満足しているような風潮がよくないよ。俺も半分日本人だからかな、お母さんの気持ちがわかるし、赤いポピー着ける気しないわ」

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先日の投稿で、チャーチヤード(教会の庭)の木の根元に置かれた白いポピーのリースについて触れました。

Lest は普段あまり使わない単語ですが「~しないように」という意味


「忘れないでいよう‥‥」というこのメッセージ。

このリースがあえて白いポピーだという意味は何かあるのだろうか‥‥
家に帰って調べてわかったことは、白いポピーには3つの意味があることでした。下のウエブサイトから抜粋し、和訳しています。

1⃣ 民間人と兵士双方を含む全ての戦争による犠牲者への追悼
私たちはあらゆる国籍の人々を覚えます。私たちは、過去だけでなく、現在起こっている戦争で亡くなった人々を覚えます。また、難民や植民地紛争の犠牲者など、ともすれば排除されがちな人々のことも覚えます。

2⃣ 戦争と軍国主義、および戦争を美化または祝う試みへの挑戦
白いポピーは、戦争が正常化され正当化されるような社会に疑問を投げかけるよう私たちを勇気づけます。白いポピーは戦争やその原因をつくるものに抵抗する必要性を思い出させてくれます。

3⃣ 平和への決意と、紛争に対する非暴力的な解決策の追求
壊滅的な戦争の犠牲者と代償に注意を向けることで、白いポピーは私たちが平和のために継続的に悪戦苦闘することの緊急性を強調しています。

なんということでしょう!自分の気持ちにより近いのは赤でなく、白のポピーだったということを知ることになります。

  • 白いポピーならイギリス人だけでなく、日本の国で戦争の犠牲になった全ての人への想いを託せます。

  • 日本にいつまでも戦争を放棄し続けてほしい私の気持ちとも重なります。

  • 戦争がないこと=平和とするのでなく、積極的に皆が調和し愛し合う、そんな世の中を願う気持ちを表現できます。

    この白いポピーが始まってからやがて90年になるのですって!
    なぜ今まで知らないままだったかといえば、身に着けている人を実際に見たことがなかったからです。
    赤いポピーの代わりに着けてもいいし、追加として着けるのもよいという記述も読みました。

    けれど、こんな記事を見つけてから、私は白いポピーは赤いポピーに対する静かな挑戦だという気がしています。

White poppies symbolise the conviction that there are better ways to resolve conflict than through the use of violence. They embody values that reject killing fellow human beings for whatever reason.
(白いポピーは、紛争を解決するには暴力よりも良い方法があるという信念を象徴しています。白いポピーは、いかなる理由であっても人間という仲間を殺すことを拒否する価値観を体現しています。)

https://www.bristolpost.co.uk/news/bristol-news/white-poppy-meaning-controversial-remembrance-2151184



愛国心というのは大切かもしれないけれど、国が犯した過ちがあれば、それを認める謙虚さが必要だと思います。
日本に過去の過ちがあるように、戦争をした全ての国にそれぞれの過ちがあります。
軍人さんたちは自国の人々が平和でいられるようにと、守ってくれています。
だったら軍事力を持たない国は終わっているのでしょうか?そうではないと信じます。
白いポピーを身に着けることは、静かな祈りのような『平和への決意』です。どうか軍に従事していた人やしている人、そして彼らの家族にとってそれが敵対だとか感謝の欠如だと感じないでほしいと願います。
そう願いながら、私はこれからこの時期には白いポピーのことを人に話していこうと思っています。
そうだ、私の周りには売ってないから、自分で作って身に着けよう。それから賛同してくれた人の分も作ってあげよう。
‥‥そんなふうに思っています。

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