見出し画像

芋焼酎

父親は少々、いやかなり酒癖が悪かった。外食も好きだったので、家族で出かけたがっていたが、父親以外は結末を覚えているので行きたがらない。
結末とは、必ずと言っていいほど、ケンカになるのだ。母親や僕たち子どもとのケンカではない。他のお客さんか店員とのケンカだ。

僕が大学生のころ、夏休みで戻ると、父親から盛り場へ迎えに来いと呼ばれることがよくあった。免許を持っていて、大学生ながら名古屋で車を乗り回していた。父の車をもらって行った引け目もあって、迎えに行った。

ニシタチという繁華街の中央通りに入ると、渋滞している。酔客も歩いているから徐行なのだがずいぶんな渋滞だ。ようやく進むと、道の真ん中あたりで踊っているおじさん二人。二人ともステテコ姿だ。
これで渋滞していたのか、とやり過ごそうとしたら、なんと一人は父親だった。一気に恥ずかしくなり、轢いてしまおうかと一瞬考えたほどだ。

父親が朝、トイレに行くとすごい残り香があった。
僕はぜったい、芋焼酎だけは飲むまいと思っていた。実際、学生、社会人となっても焼酎は基本的に飲まなかった。

36歳で故郷宮崎にUターンした。東京以上に夜の部が増えた。土地柄もあるし、会社を設立し、新しいスタッフとの親睦もあったからだ。
ビールの後はほとんどの人が焼酎を飲む。
二次会のスナックでは焼酎が多い。コストの問題もある。宮崎のスナックは焼酎飲み放題で2000円から3000円。他の飲み物は高くなる場合が多かった。

次第に芋焼酎のおいしさに目覚めることになる。
Uターンして早くも27年。今は芋焼酎は寝酒ともなっている。在宅で仕事をして遅くなった夜は、芋焼酎のお湯割りで韓ドラを見るのが楽しみだ。

最近、気づいたのは、芋焼酎のお湯割りを口に含んで、すぐに飲まずに口中に焼酎を置いておく習慣だ。
口の中に焼酎の香りと味が広がったままなのが心地よい。少し口の中、頬の内側がしびれる感もあって、それもよいのだ。

宮崎は霧島という酒造があり、現在焼酎では日本一の生産高を誇る。黒霧島が特に全国で飲まれている。県外では、「霧島」なので鹿児島の焼酎と思われているが、宮崎の焼酎だ。種類は全国で売れれば、それだけ県の税収が増えるらしい。
この霧島酒造、黒霧島という黒麹を使って従来の芋焼酎の臭みを抑えた焼酎を出した。福岡でCMを打つなど県外での拡販戦略を展開していたらしいが、2002年秋の日本テレビの番組『ナイナイサイズ!』の企画「やべっち自分好みの焼酎を探す!」で、最後に矢部が「うまい!」と絶賛した焼酎のひとつが黒霧島だった。(記憶ではもう1本別の焼酎があった)

たまたま、東京でその番組を見ていた。実は宮崎では周遅れで深夜に放送されていたらしい。そのころは子育てもあって、東京に居る日が多かったのだが、宮崎の責任者からの報告で、日向市にある酒店から、「当社のホームページで焼酎の注文が入った」との連絡があったという。その酒店の社長はいたずらと思ったようだが、「念の入ったいたずらで、注文者がばらばらだ」とのことで、一晩に40本の注文が入ったとのこと。
私はナイナイサイズ!を見ていたので、ピンと来て、それは本物の注文だからしっかり対応するよう酒店の社長に伝えるように言った。
黒霧島をネットで検索すると、当時はその酒店しかホームページで販売をしていないので、集中したらしい。

焼酎の話はキリがない。最後にひとつ。芋焼酎を熱燗で飲むとうまい。ほんとうにうまいのだ。ところが酔いやすい。
昔、県外から取引先の幹部が来た。宮崎市内で一番うまいと思っている店に招待した。打ち合わせ時から彼の品の無さや言行が気になっていたが、その店で頭に来てしまった。
自分:「どうですか、ここの料理は。おいしいでしょ?」
彼:「はい、でも僕はごはんに塩があればごちそうなんで」
とのたまう。しかも、食べ方は妙な持ち方で箸を使い、犬食いである。また言行も下品なので、店のスタッフに焼酎の熱燗を頼み、「これが宮崎の飲み方です、どうぞ」と徳利と猪口で差し出した。
「いやあ、おいしいですね!」と彼。
1本飲んだところで、ホテルに帰ることに。:今思えばパワハラのひとつ?でもこちらが販売を担当しているのだから、そうでもないかな。時効ということで。

芋焼酎でマガジンできそうだな。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?