【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#28
帰国(4)「すまん入る」
と言って聞多は、部屋に入り込んでいった。
「おう、大和に内蔵太久しいのう」
「何言っとる。昨夜顔は合わせちょる。何も話せんかったけどなぁ」
大和がからかうように聞多に声をかけた。その雰囲気には合わせずに聞多は切り出した。
「殿はおいでか。お目通りを願いたい」
「大丈夫じゃ。お待ちになっとる」
渡邊内蔵太が答えた。
聞多は俊輔に向かって言った。
「俊輔ついてこい」
「はい」と消え入りそうな声しか出なかった俊輔は、聞多の後ろに付いていった。