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異常な熱意、異常な精神性――青田めい『オールドヨコハマラジオアワー』


(1巻P53)

 これ、恐ろしいのは1回のループに半年かかっていることなんですよね。計12年半。頭おかしくならないのか。ならないのです。だって推しへの愛があるから!
 青田めい『オールドヨコハマラジオアワー』は推しタレントの推しラジオ終了を阻止するべくループを繰り返す女性の物語です。彼女の熱量は全て「このラジオをずっと聞き続けたい」という思いによるもの。そこに混じり気はひとつもありません。

(1巻13P)

 似たような思いを経験した人も多いでしょう。しかし、直後に半年前にタイムリープして「やった! これでラジオの終了を止められる!」と考える人は、ちょっといないのではないでしょうか。

(1巻P19)

 異常です。タイムリープに一切驚かないこともおかしいですし、そもそも一介のリスナーがラジオ終了を防げると本気で考えること自体が普通ではありません。これが「ラジオに命を救われた過去が……!」みたいな話だったらまだわかるのですが、(少なくとも現状は)そんなことはなく、ただ大好きで聞いていて、それがいつしか生きがいになっていたという、ただそれだけです。
 でも、推しって、生きがいって、大体そういうものですよね。自分でも気づかないうちに特別な存在になっているからこそ、人生をかけて追っていけるのだとも言えます。まあ、だからといって10年以上もリープし続けようとは思えないですが。

(1巻P32)

 この間1年半。このスピード感がまた彼女の異常性を増幅させています。

(1巻P93)

 本作にはある種のミステリー的な面白さも多く含まれています。「いちリスナーがラジオ終了を阻止するにはどうすれば良いか」、これはかなり魅力的な命題です。タイムリープできるという条件の中、それを考え、実行に移す課程は知的好奇心を存分に満たしてくれるものです。

(1巻P25)

 ラジオのパーソナリティとリスナーをつなぐもの、「お便り」を駆使して相手の意思を変えるというのは、どこかゲーム的でもありますね。

(1巻P43)

 このあたりも実にゲーム的。まあ、また戻る=半年経過ですから、まともな人間の感性では耐えられないでしょうけれども。

 怒濤の勢いでタイムリープを突き進む主人公は異常者ではありますが、その根底にあるのは「推しを推し続けたい」という純真な心。くもりなき彼女の熱意にこちらまで巻き込まれてしまうような怪作です。

(1巻P100)

 こうやって急に冷や水を浴びせてくるのも、実にこの作者らしいですが。


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