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楽しさのおすそ分け――さいにゃん『てくてくっ!秘密リサーチ』


(1巻P11)

 さいにゃん『てくてくっ!秘密リサーチ』の主人公・ひぐれは歴史に思いをはせながら街を歩くのが趣味の女子高生です。例えばこんなふうに。

1巻P11

 古地図を片手に、「地下に埋められた川」である春の小川をたどって水源を探す。そんな散策は知的好奇心をくすぐるもので、とても楽しそうです。この楽しさを少しでも人に知ってもらいたい、そんな思いから彼女は散策のたび、動画に撮って自身のチャンネルにアップしていました。

(1巻P74)

 ただ自分が楽しむためだけならネットにアップする必要もないですから、彼女は趣味を他人と共有したいわけですね。自分が面白いと思うことを、他の人にも面白いと思ってもらいたい。そんな思いが根底にあります。そして、これこそがまさに本作のテーマなのです。

(1巻P55)

 もともと、ひぐれは一人で散策をしていました。それが友人と出会い、共に行動することで、楽しさを共有することの喜びを改めて感じるのです。「このおもしろさを誰かにも知ってもらいたい」という感情は、人間であれば誰しも覚えのあるもの。それを肯定し、本当に素晴らしいものなのだと真正面から謳うところに本作の価値があります。

(1巻P55)

 ひぐれの幼なじみ、たからはブログ業で大金を稼ぐ敏腕起業家ですが、決して儲けのために行っているのではありません。そこにはやはり、「良いものは人にも共有したい」という考えがあります。この世界では誰もが他人を思いやっていて、皆で幸せになるために行動している。そんな世界観の温かさにはグッとくるものがありますね。

(1巻P64)

 友人たちと良い景色を見て、ごく自然に「またみんなで来たいね」と笑いあえる彼女たちは尊く、それを描く作者のまなざしもまた尊い。読むと少し優しくなれるような、そんな良作です。


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