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倫理観はどこまで遡及されるべきなのか『夜の道標』

法律には不遡及の原則というものがあります。
一方で、価値観や倫理観はどこまで遡及されるべきなのか。まさに今起きている事を見てそんなことを深く考えさせられています。

優生保護法、子どものネグレクト問題など、なかったことにしてはいけない深い問題が描かれた重い作品でした。
「今だからこそ大問題、だけど、当時はそれが正しいと思っていた」なんて話はここに出てくるだけじゃないでしょう。
価値観が違うのは世代の問題で片付けられるけど、倫理観の変化はそれでは済まされないんですよね。
しかし、かつての正義の是正は非常に難しい事です。だってまごうことなき正義だったんですもん。過去を曲げようとすれば、時としてこうやって血を伴う事になってしまうのかもしれません。

読み始め、なぜこの時代で書いたのか、不思議でした。その理由がわかったとき思わず唸りました。それも含めて作家の覚悟と企みなのです。
本に描かれている物語以上に、考える事が多い重い小説でした。
真っ暗な夜、見えている道標しか信じる事はできません。そんな日々を送っていた人に、少しでも明るい日があたり、その道標をも選ぶ事ができるようになりますように。


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