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シリーズ化も楽しみな『惣十郎浮世始末』

信頼する読み手の何人もが発売前から絶賛していたので「これは読まねば」と決めていた本でした。
いわゆる捕物帖です。ですので、謎解きがメインのミステリなのですが、力が入っているのは家族や親子の業の部分だったり、お上からの締め付けに辟易しながらも楽しみを見いだしながら日々一生懸命生きる江戸の人たちを描く本であったり、その顔は色々。

肝心の謎自体は「もしかして、黒幕というか犯人はこの人なんだろうか」と途中で気づいちゃったんです。
とはいえ「なぜ」が残っていたので最後まで勢いよく読めました。また、それ以上に、事件に関わり、それを解いていくなかでかわっていく登場人物たちの心や態度を見ていくのが楽しかったです。

登場人物たちに共通しているのは「正しい事をする」という心を持っている事なのかなと読み終わった今、感じています。
「正義」というのとは少し違うのですが、事件の顛末を見ていると「正しい」と信じたことに誰もが向かっていったような気がします。
ただ、正しさとはまことに主観的なもの。正しいと信じたことが正義ではないし、目的が正しいからといっても、手段で間違うことは山のようにある。
これは現代社会にも通じることなのかもしれません。

550ページ超えというボリュームは、新聞連載ならではなのかもしれませんが、こうなるとどうしても価格も上がってきてしまうので、日頃捕物帖に親しんでいる世代には少しハードルが高いのかな。
読者にとっては手を出しづらい本ではあるけれど、時間をかけて味わいながらゆっくり読める本だと思うので、後悔はないはず。
主人公の惣十郎はまだまだこれからも多くの事件を扱いそうだし、周囲の人物も大変味がある人が揃っています。
シリーズ化も楽しみな作品でした。

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