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【映画レビュー】『グッドモーニング・バビロン!』:何度見ても本当にいい映画だなあ

 見終わった後に「ああ、いい映画だったなあ」と思うことがある。この作品はそういう映画の中でも、一番といっていいくらい「いい映画だなあ」と思える映画だ。
 1987年のイタリア映画である。学生時代に、映画・演劇通のちょっと胡散臭い先輩に勧められて見た。当時、ブームが起こり始めていたミニシアターだった。この度、改めて見直してみたのだが、最初に見たときと同じように「ああいい映画だ」と思った。その思いはまったく薄れていなかった。


滑稽なほど寓話的な兄弟愛

 ひとことでいうと、兄弟愛と美への愛にあふれた作品である。
 古い教会建築の修復などをしていた兄弟は、仕事をもとめてアメリカに渡り、苦労しながらも、なんとか『イントレランス』という映画の美術係として、雇ってもらえるようになる。そして、ひたすら本物の美を追求し、やがて信頼を勝ち得て、重要な造形(象の彫像)を任されるようになる二人の姿が描かれる。
 でも、そんじょそこらの兄弟映画ではない。
 何をするのも二人は一緒。喜びも怒りも、なんと、恋をするのも同時で、兄が恋をすれば、弟も恋をする。結婚も、妻が産気づくのまで同時だった。気持ち悪いほどすべての行動がシンクロする。ちょっと滑稽で、リアリティがなかったりするのだが、様式美といってもいい。というより、寓話やおとぎ話というほうが適切かもしれない。ハリウッドの映画なら、不自然な脚本をたくさん直されそうであるが。
 それでも、何ら違和感を感じずに、映画に引き込まれていく。見ている自分が、これは素敵なおとぎ話を見ているのだことを、無意識のうちに受け入れているからだと思う。微笑ましくて笑ましくて、ああいいなあと思ってしまうのだ。

寓話が壊れるとき

 それでも、そのシンクロが唯一破れてしまうのが、二人の妻の出産であった。兄には子供が生まれ、弟のほうは妻が出産後に死んでしまう。
 そのことで、完全に一体だった兄弟の関係にひびが入る。二人は初めて離れ離れになり、シンクロしなくなる。

再びの寓話

 疎遠になってしまった二人だが、最後に戦場で偶然に出会う。そこで二人は、同時に瀕死の状態になることで、再びシンクロする。そして、お互いの瀕死の姿をフィルムに残そうと、お互いにカメラで撮り合う。このシーンが映画全体を象徴する。兄弟愛と美への愛に満ち満ちた、悲しくも美しいシーンである。そこに、リアリティはないかもしれないが、寓話的メルヘンに貫かれている。


 うーん、この映画の魅力を伝え切れていないような気がする。とにかく、映画っていいなあと思える映画なのだ。いい映画を見たいなあと思ったら、ぜひ見てほしい作品です。何度見ても「ああいいなあ」と声が漏れてしまいます。

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