負けるためのスプラトゥーン
これはSplathon Advent Calendar 2022の12月25日の記事です。 ひとつ前、12月24日はぺろりさんの「コミュニティ貢献のすゝめ」でした。ひとことで言うと、いい話です。みんなとコミュニティ(と言わずとも「一緒に遊ぶひとたち」とかでもオッケー)でわちゃわちゃできるのは素敵なことです。当たり前ですが、対戦相手がいなければ対戦ゲームはできませんからね。
それでは、「負けるためのスプラトゥーン」のはじまりはじまり。
えっ?
負けるためのスプラトゥーンとは何事か。たしかにそうだ。私だって記事の内容を事前に決めていたわけではなく、「負けるためのスプラトゥーン」というフレーズをパッと思いついて、なんか面白そうだな、と思ったからこの原稿を書いている。したがって、私も「負けるためのスプラトゥーンとは何事か」と思っている。ちなみに今は2022年12月25日の14時27分だ。
以前私は「勝つためのスプラトゥーン」という内容で対談じみた話を2回書いていたのだった。ここでは「何をしたら勝てるプレイヤーになれるのか」について大枠の話をした。おおむね「勝つための努力と枠組みを作るにはどうすべきか」、そして「銀の弾丸は存在しない」ということについて大枠で語った。華麗なプレイを決めて勝敗が決着する「勝者のゲーム」と、ミスをすることで勝敗が決着する「敗者のゲーム」が存在するとき、スプラトゥーンはほとんどの場合敗者のゲームであり、勝つためにはミスをしないことが大事である、といった話もした。おたよりコーナーは……まあ忘れるとして。
さて「負けるためのスプラトゥーン」とはいったい何なのか。当然、「敢えて対戦相手が得をする行動をして、わざと負ける方法」とか「いい感じに新規参入者(=初心者)を接待するために、それっぽくプレイして負ける方法」とかが思い浮かぶが、本稿ではそういったものは一切取り扱わない。興味があるのは勝つことであり、そのために正しく、よりよく負けることだ。
では正しく、よりよく負けるとは何か。パッと思い浮かぶのは2つだ: 敗北から学びその内容を今後の勝利に繋げること(長い目で見た敗北から得られるリターンの最大化)と、勝ってはいけない試合に勝たないで負けること(立ち回りを崩さないこと)。この2つは同じことについて違う語り方をしているにすぎないのだが、一応それぞれ見ていこう。
負けから次の勝ちを拾う
まず「敗北から学びその内容を今後の勝利に繋げること」だが、これは「負けた時にそれをただの負けとして処理しない」というふうに換言できる。「負け」の内容を腑分けして分析しようというわけだ。
往々にして、負けた試合について考える時は決定的なシーン(例えばガチホコバトルにおけるギリギリの攻防からのカウントリードの瞬間)が思い浮かぶ。オフライン大会の会場であれば一気に歓声が上がり、Twitchのコメント欄が爆速で流れていくだろう。みんなが待ち望んでいたスーパープレイ。GGWP。
しかし真実はそこにはない。だいたいその試合が始まった瞬間から終わるまで、負けのルートについてはたどることができる。試合を通して、一本の曲がりくねった線が引かれている。あなたがそれを見出すことができないのなら、もう少し短い時間でスタートしてみてもいい。決定的な瞬間の5秒前。10秒前。15秒前。30秒前。1分前……少しずつ遡る時間を増やしていけば、「もしかして、コレが原因だったんじゃないか?」と言いたくなる、しかし傍目から見ればなんてことない瞬間が見つかるはずだ。それはありがちなキャラクター操作ミスだったり、思った位置に塗りが発生しなかったことで引き起こされるわずかなスリップダメージだったり、相手が全くいないのに無駄なクリアリングを延々やっていることで生まれた1,2秒のスキマだったりする。そのポイントを見つけて、因果関係を辿っていく。
どこかに、支払ったリスクとリターンが、参加費と報酬が、見合わなくなるような分岐点がある。そしてそれは想定している盤面やゲームレンジやカウント数によって変わる。その分岐点を見つけるのはかなり難しいし、バリエーションが多すぎるので、ここでは個別の事例に立ち入ることはしない(が、そういう分岐点があるということだけは覚えておいてほしい)。
このゲームは極めて複雑だ。何につけても誤った原因を想定してしまうことも多い。こんな偉そうに原稿を書いている私だって、誤ったルートを思いつくことなんて山ほどある。ましてやXパワーにして3,000を超えるようなプレイヤーですら敗因を取り違えるのだから、私もあなたも間違えないわけがない。ひたすら間違える。間違えたうえで試行錯誤して失敗の理由を探す。また間違える。また探す。また間違える……泥沼を這うような時間だが、黄金は最も深い場所に隠されている。問題はあなたがどこまで沼に浸かるかで、覚悟が決まっていればよく、覚悟が決まっていないならやめておいたほうがいい。まあ、それでも片足くらいならちょっと浸かってみてもいいかもしれない。だいたい片足入ったら肩まで入るんだけどね。
強くなるために負ける
そして話は「勝ってはいけない試合に勝たないで負けること」に続く。これは一体どういうことか。「勝ってはいけない試合」なんてあるのか? 勝ちがレートのポイントやらゲーム内通貨やら何やらの報奨を与えてくれるゲームなのに? 逆に言えば「負けていい試合」があるってこと? なんでどうしてどうしてなんで?
結論から言えば、ある。具体的には「やってはいけないことで勝った試合」だ。チートだ談合だ煽りイカ(タコ)だという話ではない。たとえば滅多に相手を倒せないであろうプロモデラーRGで20回相手を倒して勝つ(しかもアシスト抜きで!)とか、ぜんぜん塗れないはずのロングブラスターでガチエリアをひたすら塗って勝つ(おめでとう、塗りポイントNo.1だ!)とか。確かに勝ちは勝ちだ。
が、それはあなたをゲームプレイヤーとして上達させるのだろうか? 勝てたら嬉しいが、それは目先に吊るされた「勝ち」に突進しているだけで、ちょっと時間があれば千尋もある崖に真っ逆さま……なんてことだって珍しくない。そのブキで、そのルールで、そのステージで、その編成で、もっと言えばこのゲームにおいて弱い行動パターンで勝った試合はどれくらいあるだろう? 思い出せるか?
私はこれを「質が低い勝ち」と呼んでいる。そんなことをして勝てるならどうやったって勝てるに決まっている。なら「これを試したらどうなるだろう?」という試行錯誤をして負けた方がよっぽどあなたの経験値になるし、もっと言えば正着手を取った方がいい。プロモデラーRGできちんと塗ったり撹乱したり、ロングブラスターでオブジェクト越しの爆風2発や角度のついた位置からの直撃を狙ったりすれば経験値になる。言うまでもないくらい普通のことだ。
「勝ったからよかったけどアレはダメだった」を減らす。「負けたけどコレのおかげで勉強になった」を増やす。それは長期的にあなたの勝利を増やすだろう。ナワバリのチョーシを増やすだろう。バンカラマッチのポイントを増やすだろう。Xパワーを増やすだろう。できればぜんぶ勝ちたいんだけど、それは無理な話だ。あとはあなたがいつまでゲームの盤上に立つかどうかだ。
また負けるために
今回は、ゲームを上達するために必要なことは、「負けの品質を上げること」である、という至極当たり前のことを長々と書いた。対戦ゲームをそれなりにやり込んだ人、あるいは『Getting Over It with Bennett Foddy』が大好きな人あたりは、このへんの話はしなくてもなんとなく分かっていただけると思う。よりよく失敗することで長期的な成功の確率を増やす。それだけである。
と、いうわけで、「負けるためのスプラトゥーン」もとい「勝つために負けるスプラトゥーン」はこれでおしまい。結局勝つためじゃないか、という人は、冒頭に引用したDavid Sirlinのコメントをよくよく読み返していただきたい。
それでは皆さんもよいスプラトゥーン3ライフを。別に勝たなくたっていいのだけれど、どうせ勝ちたいならやれるだけやったらいいじゃない。
メリー・クリスマス、メリー・クリスマス! ミスター・ローレンス!
さて、Splathon Advent Calendar 2022の最後の記事がこれである。ちなみに今は2022年12月25日の15時27分で、ジャスト1時間でこの記事を書き上げたことになる。思ったより遅かったが、まあよしとしよう。クリスマスの残りの時間を楽しんでいただければと思う。私もそうする予定だ。
次はあなたの番です。あなたは、このゲームで何をしますか?
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