「未来志向型」で組織のワクドキを高める

今年の理念研修のテーマは、「未来志向型」です。
①経営理念、②事業計画書、③人事諸制度それぞれを連動させて、利用者家族満足につながるサービス提供を実践する「コア・マネジメント」の図表のそれぞれを結んでいる矢印について取り上げます。

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「未来志向型」とは

理念が組織に浸透していて、職員一人ひとりが理念の実現に向けて主体的に仕事をしているという福祉施設はそう多くはありません。
日々の業務を振り返ると実は理念に結びついていた、といった後追い的に理念を実践している(これを「過去振り返り型」とよぶことにします)という法人や施設の方が多いのではないでしょうか。

この「過去振り返り型」とは理念との向き合い方が真逆なのが「未来志向型」という考え方で、これは業界動向や外部環境の変化などを予測し、理念を実現するためにはどんなことをしなければならないかを先読みした上で、具体的な方向性(方針)や行動を逆算するという理念との関係性を表した考え方です。
考え方そのものは別に真新しいことではありません。

未来志向型

・「過去振り返り型」:行動 → 理念
日々の業務を振り返ると、実は理念に結びついていたという後追い、偶然的なアプローチ(達成感が弱い、業界動向などの変化に対応できない)
・「未来志向型」:理念 → 行動
業界動向や外部環境の変化を先読みし、理念を実現するために何をしなければならないか逆算して方針や行動を導き出す、意図的なアプローチ(達成感が強く、業界動向などの変化に適応することができる)

例えば、これから介護福祉士の資格を取りたいと思っている職員は、3年後の国試に向けて、1年目にはどんな勉強をし、2年目にはどんな勉強をし、3年目をどう迎えるかということは容易に想像することが出来ますし、実際に行動を起こすことが出来るのです。
それは我が事として、自分自身の未来をイメージし、それに向けた行動を計画しやすいからです(旅行の計画を立てるのも同じですよね)。

そもそも理念が浸透していない(職員が知らない)状況で、組織運営やサービスの質の向上を図るために理念を行動指針的に活用し、方針や行動を起こしましょうと号令をかけても、我が事になっていない職員では、実際に成果を上げていくのはハードルが高いことでしょう。

現場職員の中には目的意識を見出すことなく、なんとなく8時間仕事をしているという方もいるかもしれませんが、自分たちが仕事をしている業界の現状や動向を把握した上で、目の前の利用者のケアに結びついているという目的意識を見出すことが重要です(そうしなければ、ただの作業になってしまうからです)。
組織で働く以上、法人や施設・事業所の将来像を共に描きながら、その姿から逆算して日々の業務内容や成果を定めて、取り組んでいくことで、組織の成長を皆で促すことができます。

「未来志向型」の視点を組織に定着させるために

介護保険制度や社会保障制度の動向、人口減少社会に突入したことによる、様々な産業界で起こっているデジタル化への流れ、社会福祉法人の倒産や法人連携・事業継続性などの事業を取り巻く環境は、日々めまぐるしく変化しており、その動向について日々情報収集している状況です。
コンサルタントという立場上、お客様も将来予測やそのために何をしなければならないかの助言や預言を求めているわけですから、この点については、人一倍アンテナを高く伸ばしておく必要があります。

組織的に「未来志向型」の視点を定着させていくためには、随時、経営層から法人や施設・事業所の将来像や事業構想についてメッセージを発信し続けるとともに、業界動向や外部環境の変化の流れに対して、どう適応していくか検討する機会を重ね、形式知化して共有することが重要です。
次項では形式知化するためのツールとして、事業計画書のさらなる活用方法をご紹介します。

事業計画書を活用した「未来志向型」のすすめ

事業計画書は、理念を実現するための具体的な行動計画や方向性(方針)が示されるべきツールです。
だからと言って、精緻な事業計画書を作ることが目的ではなく、量(ページ数)より質(内容の具体性や視点)に重点を置いて策定できているか確認してみましょう。

質を高めた事業計画書を策定するためには、やはり日々の進捗管理の精度にかかってくるといっても過言ではありません。
なぜなら、事業計画書と事業報告書を作成する上でのタイムラグが生じてしまい、年間を通した取り組み成果・評価(事業報告書)を次年度の事業計画書に反映させることができないのです。

ケアプランを見直す際、多職種によるカンファレンスやモニタリング・アセスメントを行い、評価してから見直しをかけていると思いますが、事業計画書も本来であれば、評価を踏まえ、内容を見直し(ブラッシュアップ)する必要がありますが、作成上のタイムラグが生じてしまうためできないのが実態です。
そのため、次年度の事業計画書を作成する12月以降の取り組み状況の着地点を予測し、目標数値の設定や行動計画の内容を詰めていく必要があるのですが、そのため年度だけ変えて、中身は同じという形式的な事業計画書が生まれてしまう要因になっていると推察されます。

そうならないためにも、事業計画書の中に「未来志向型」の視点を盛り込み、法人や施設・事業所の今後の事業展開や人材育成などについての方向性(方針)や行動計画の目的や意図を明確にして職員に示し、具体的な行動に結びつけていくツールとして活用することが重要です。
せっかく策定しても、見向きもされず、本棚の肥やしになってしまっていては勿体ないですから、活用しない手はありません。

・事業計画書を策定したら必ず職員に配布し、説明する機会を設る
・毎月の会議にて行動計画の進捗確認を行う(目標達成の度合い)
・事業計画書から部署やフロア・ユニット目標に落とし込む
・個人の目標管理制度に事業計画書の内容を結びつける 等

活用の仕方は法人や施設・事業所によって、さまざまな工夫を行っていますが、「事業計画書が出来たから見といてね」で済ませるのではなく、経営層がきちんと説明をしているということは共通しているといえます。
理念を実現するための具体的な行動計画や方向性(方針)を職員の個人レベルに委ねるのではなく、経営層がきちんと伝えるというアプローチは必須だと思います。

そうしていくと、職員自ら「こんな取り組みはどうか?」「こういう成果を出すための取り組みは何か?」と考える習慣が根付き、組織づくりやサービスの質の向上、人材育成という組織運営に関するワクワク・ドキドキを高めていくきっかけになります。
私のクライアントにも、理念と事業計画書の結びつきを強めたことで、職員の主体性が高まり、組織力の向上(いわば組織の成熟度)を高めたケースが増えています。
組織の中に「未来志向型」の視点を取り入れ、未来から逆算して何をしなければならないか考えて、行動できる「考動力」を持った人材が増えることで、組織が活性化し、組織全体でのワクワク・ドキドキを増やすことができれば、職員の成長や定着にも良い影響を及ぼすことでしょう。
次年度の事業計画書作りから、「未来志向型」の視点を盛り込み、職員のワクドキを高めていってはいかがでしょうか。

管理人


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