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memento mori



いつからか抱く憧憬

部屋の中、大切な人と

雨音を静かに聞く。

大切だと想う人に出会い

彼女とその時間を過ごしたいと思った。

天気予報では

彼女と次に会う日に

それが叶う予定だった。

だったとある通り

天気は快晴だった。

つまり叶わなかった。


晴々しい予報は

必ずしも吉報とは限らない。

雨降りは、始まりの兆し

何かが起こる

そんな気がしていた。



ある日

私と彼女は

古いパイン材の机の下で

身を寄せ合っていた。

机の下で身を寄せ合っていた事に

理由は特に無い。

そうしたいと思った、ただそれだけだ。

四つ足に囲まれた、その空間は

世界と隔離されているようだと

彼女は言う

二人乗りの方舟

安心感をおぼえる

懐かしさと

同時に雨音への憧憬が

脳裏を過ぎる

手を繋いでいた

繋いだ手から

香る彼女の香水

ふんわりとした奥行きのある香り

ペトリコールを思わせる。


これを望んでいたのか

あの憧憬は、ここだったのか。




世界の終わりの手前辺りでも

おんなじように二人で身を寄せ合っていたい。

キスをして、語り合おう。

明日の約束でもしよう。

語りつかれて、眠りにつく。

幸せを感じて

暖かさを感じて

終わりが来た事を知らないまま

終われたらいい。

二人なら絶望さえも遠くにおいやれると

最後に証明しよう。








彼女を巻き込んだ

私の終わりの物語

彼女にも彼女なりの

終わりの物語があるのだろう。

死を想い、その最後の瞬間を

どう生きるか決めるのはその時の

当人自身

その終わりの物語に

私を添える必要は無い

個としての彼女を尊重したいと思うと

そういった言葉も出てくる。

頭では、それを思いながら

心では、素直にそうとは言えないみたいだ。

彼女の終わりの物語

最後の瞬間、隣に居たいと

想う相手が私であって欲しい。




エゴに塗れた妄想譚

終わりは来ないで欲しい

終わりの手前

二人で甘いやりとりをする。

それはそれでやぶさかでは無い。


生と死の揺らぎから香る誘惑に魅せられて

矛盾を舞台に踊り続けられたなら

変わらず美しく在れるのだろうか。






















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