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霜降り明星せいやの執筆スタイルは檀一雄のデビュー小説と一緒

 先日、Xのタイムラインに霜降り明星のせいや氏の次のようなポストが流れてきました。

出版社の方にやり方驚かれました
白紙にぜんぶ手書きで小説書いていくのめちゃくちゃ珍しいらしい
100%手書き小説お楽しみに!

 確かに、現代の作家のほとんどはもう原稿用紙などに小説を手書きすることはなさそうですし、PCやタブレット端末で執筆をした方が便利で書くスピードも早くなりそうです。

 ただ、私は近代文学が好きなので原稿用紙に手書きをしていた作家の本ばかり読んでいます。そこでふと思い出しました、白紙に手書きで小説を書いたという話を読んだことがあるなと。

 それは緒方健主演で映画化もされた小説「火宅の人」の作者であり、女優檀ふみの父であり、太宰治の盟友で山岸外史と共に「三馬鹿」と呼ばれた作家檀一雄の随筆で、自身の作家デビューの経緯を書いた「不思議なデビュー」というものです。

 檀が東京帝国大学に在学していた二十一歳の時、その頃は小説よりも絵を描いていた檀は、同郷の友人が発刊することになった同人誌『新人』に小説を書けと言われます。小説などは読むばかりで書いたことがない、原稿用紙の枠の埋め方もわからない(これは文学的表現であって実際には檀は高校の校友会誌に小説や詩を発表しています)という檀は躊躇しますが、友人は執拗に原稿を催促します。

 そんな中で故郷の柳川(出生地、ではありません。檀のこの辺のいきさつは大変ややこしいのですが)に帰省していた檀は、納涼のために訪れた立花伯爵邸の図書館で突如小説を書く気になります。

 私は立花伯爵邸の図書館に、半分昼寝、半分納涼に出向く習慣であったところ、誰も閲覧者のいないその閑寂な図書館の中で、キジャキジャと啼くカササギの声を聞いているうちに、ふと、どうでもいい、己のこの奇ッ怪な憤怒と孤独を、おがみうちに叩きつけてやれという不思議な気持ちが湧いた。
 ワラ半紙になぐり書きで、まる二日で書き上げたように思う。
 繰り返すように、原稿紙の枠の中におさめる術を心得なかったから、句読点の度に改行して原稿用紙に書き移してみると四十何枚かあった。

檀一雄「不思議なデビュー」

 デビュー作で、原稿執筆に慣れない状況だというのはせいや氏と共通しています。確かに小説を読んだことがあっても、原稿用紙にどのように書いていくのかという作法は小説を書き慣れている人でなければわからないのではないかと思います。それは手書きならではの悩みかもしれませんね。

 ちなみに、現代の作家でも田中慎弥氏は白紙に鉛筆で執筆するスタイルだということが知られています。また、西村賢太氏はまずノートに手書きで書き、それを原稿用紙に清書するというスタイルでした。これは最近評伝を読んだ昭和初期に活躍した作家矢田津世子もそうだったといいます。

 小説を執筆するスタイルというのは作家によっていろいろあるみたいですね。それをまとめた本があったら読んでみたいなと思いました。もうあるのかな?

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