論理法令を作る その1

この記事は、法学部に通う大学生の私が、いわゆる「論理法令」を作成する試みをする記録です。一連の終わりは完成か頓挫かまだ分かりませんが、少なくとも終わりまでは続けるつもりです。



論理法令とは何か

まずはこちらの記事をご覧ください。

日本国憲法を論理プログラミング言語で表記し、Q&A方式で分かりやすく表示してくれる「論理憲法」を使ってみた - GIGAZINE

上の記事は「論理憲法」を使ってみたという記事です。「論理憲法」とは、憲法の条文をプログラミング言語で表し、その条文の構造を探るためのもので、この「論理憲法」上では、(現在は)特定の質問に対しては、条文を用いてプログラムが自動的に回答を示してくれます。

類似のもので現在体裁がある程度出来上がっている状態で公表されているのは恐らくこれのみです(※1)。かなり画期的な取り組みであると評価できます。

これを、憲法のみならず一般の法律(刑法や道路交通法等)や政令、条例等で作り上げたものを「論理法令」または「論理法律」と呼ぶこととします(個人的には、政令・条例をも含めて包括的に”論理化”したいと思うので前者を使っていきたいところです)。具体的な内容は後ほど説明します。


※1 論理憲法は、2,017年の第20回文化庁メディア芸術祭アート部門で審査委員会推薦特別作品に選出されています。

文化庁メディア芸術祭 歴代受賞作品 http://archive.j-mediaarts.jp/festival/2017/art/works/20aj_the_logical_constitution/



論理法令の目的

論理憲法の目的は「憲法解釈が高度化する中、憲法の条文そのものを基準としたシステムを使うことで、その内容をよく理解し、議論することが可能に」することです(※2)。

日本の法律はもちろん日本語で作成されているので、日本語の分かる人は当然読めますが、それが理解できるかとなると、残念ながらそう簡単にはいかないのが現状です。法律に関する議論などさらにハードルが高いものです。

法律等の条文は、極めて理路整然と書かれていて、使われている用語や用法などは時に別の言語とまで評されることもあるほど、私たちが日常使っている日本語からするとかなり堅苦しい文章となっています。

行政機関その他の公的機関に関係していたり専門的に法律を学ぶなど、法律に沢山触れる機会があって法律関係の文章を読むことに慣れていないと、その中身を汲み取ることは難しいです。

例として、令和3年4月1日現在施行されている著作権法の第4条1項を挙げると、その条文は以下のようになっています。

著作物は、発行され、又は第二十二条から第二十五条までに規定する権利を有する者若しくはその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾(第八十条第三項の規定による公衆送信の許諾をいう事項、第三十七条第三項ただし書き及び第三十七条の二ただし書において同じ。)を得た者によって上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示の方法で公衆に提示された場合(建築の著作物にあっては、第二十一条に規定する権利を有する者又はその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者によって建設された場合を含む。)おいて、公表されたものとする。

わざと難解な条文を選んでるのかもしれませんが、これは特筆して難解な条文というより、数ある一見難しそうな条文のひとつに過ぎません(著作権法においては条文間参照が多いのは事実ですが)。

法律というのは、一般性を備えつつ、明確な条件を示して、その条件下で適用される結論を定義するのが役割ですので、(特に民法等の私法の場合)現実に起こり得る様々な事態に対処できるよう、定義や条件が複雑に入り組んだ条文になりがちです。

しかし、書かれている内容は定義・条件ですので、実態は非常に論理的な文章であり、日本語の論理トレーニング等にはかなり適した素材であります(※3)。

先ほど、法律は書かれている内容が定義と条件と言いましたが、この点においてプログラミング言語と非常に相性が良いのです(※4)。日本語の法律を、記号や語順等によって明確かつ単純に論理構造を表記することのできるプログラミング言語で再構成することで、その条文による定義や条文が適用される条件などを、より正確に捉えることができるようになることが期待されます。

もちろん、全員がプログラミング言語で法律を読む必要はありません。現に法律を運用している人のほとんど全員が、日本語で書かれた条文を使っているので、テクニックを抑えればできない話ではないのですから。

しかし、プログラミング言語が読めたり、現在は読めなくても将来その習得が早いような人にとっては、プログラミング言語の方が読みやすいことは間違いないと思います。日本語で書かれたそのままの条文より、論理構造が整理されている形で書き直された条文が読みにくい訳はありません。

プログラミング言語が読める人が法律の条文を読めば、その人たちも法律の議論に参加することが可能になります。法律の議論に参加するには、法律について読めれば十分なのです。(もちろん、この法律が読みにくいという方向性の議論も推奨されますし、それが法律の議論ではないということを言う意図はありません)

法律の議論と言うのは、憲法改正、国会での法律の制定から、司法による運用のされ方まで、国家の行為ほぼ全てについての議論のことになります。

国民の定める憲法が国民主権を謳う限り、国家の運営に対し常に国民は目を光らせなければなりません。しかし、法律を読めないということは、光らせるその目が無いのと同じです。国民の多くがそのような状況であることは、国民主権が正常に機能し、国家と国家権力の動きを主権者が適切に制御できていない状態になります。憲法の定める日本国のあるべき状態とは到底言えるものではありません。

そのような状態に陥らないためにも、私はまず法律に関する議論ができる国民の裾野を広げるというのは極めて重要なことであると考えます。

以上のようなことを考えて、私がこの「論理法令」を作成する目的を「誰もが憲法や法律にアクセスし理解することで法律に関する議論に参加することを容易にし、もって日本国憲法の定める民主主義と法治国家の理念を具体化し、憲法の考える理想の国家の形成に資すること」とします。


※2 論理憲法サイト中「About:論理憲法」より引用

※3 大学入学共通テストの令和2年度試験においては出題されなかったが、共通テスト導入のための平成30年度の試行調査テスト論理的な文章を読み解く力を問う目的で、実際の法律の条文等を参照して解く問題が出題されました。(参考:大学入学共通テスト 平成30年度試行調査 - 大学入試センター)

※4 法律を題材にした取り組みのひとつに、「可視化法学」(リンクは可視化法学のサイト)というものがあります。可視化法学は「法律は、英語でCODE(コード)とも呼ばれている。プログラマがコンピュータを動かすためにプログラミング言語を用いて書くものも、CODE(ソースコード)と呼ばれている。同じ名前で呼ばれるように、一見別々だと思われがちな法律もソースコードも似たような特徴を持つ」として、法律とプログラミング言語の相性の良さを語っている。



今後の予定

1回目の記事については、一旦この辺りで締めようと思います。

定期的に進捗が現れるわけではないので、今後の記事についてはどのくらいのペースになるか分かりませんが、次回書く内容として、現在ある論理憲法に対してコードの中身に入って具体的な検討を行い、論理法令全体の基本的な形を考え、スタート地点に立てるようにしたいと思っています。

それでは。


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