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はじまりの日│詩

夜明と朝の間
冷たい空気の
プラットホームに響く、渇いた靴音
鼻の奥がつんとした

ひとりきりのボックス席
両手で握るミルクティ
「切符を拝見します」
黙って俯く
掲げて見せるべきものが見つからない
そんなにありふれた名前で
君は一体どこに向かうつもり?
窓ガラスは曇っている

たとえば穏やかな午後の、窓辺のまどろみ
たとえば目が覚めた時の、汗ばんだシャツに吹き抜ける風
たとえば瞼をあげた時の、淡い風景
からだのような温かさに
沈んでいくことを許せたなら。

光をみた——。
冷たい雨上がりの朝、草木も道も空気も煌めいて見えるような
凛と背を伸ばし遠くの街へ踏み出したくなるような。
何かになりたいわけではないけれど、
何かになりたかった
窓の向こう、たくさんの光が溢れている

触れたら、どんなふうだろう
恐くても
願いは消えない
「いってらっしゃい」
春風のようにささやいたのは誰だっただろう

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