現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その7)
女三宮はいくら逢瀬《おうせ》を重ねても相手の心が薄情で、疎ましく感じていた。一言の返事もせず、いつものようにつれない態度を取る女三宮に対し、権中納言はこれまで深く自制してきた心を失い、泣く泣く恨み言を訴えた。その熱心な様を見れば岩や木もなびきそうなほどだったが、女三宮は奥州《おうしゅう》の夷《えびす》のように無関心を装い続け、まったく甲斐《かい》がなかった。
「あなたと関わらなければ、このようにひどく気分が悪くなることもなかったでしょう」
ようやく聞くことができたその一言