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不安と狂気の頂点『このテープもってないですか?』のすゝめ

※ネタバレありません。


知らない人のために先に言っておくが、めちゃめちゃホラー作品である。

昨年放送された”普通に見えて実は不気味なバラエティー番組”の『このテープもってないですか?』は、以前私も記事を書いた令和の伝説『SIX HACK』を手掛けた大森時生氏がプロデュースしている。

ずっと見逃していたのだが、嬉しいことに期間限定でTVerにて復活してくれた。

やれ嬉しや。ということで、全三夜、観た。
ホラー好きとしてはとても満足。

この番組、『SIX HACK』が好きだった人は是非観て欲しい。
ちなみに構成担当のさんはSNSから流行りまくったJホラー的コンテンツを発信しまくる作家さんだ。最近はWebメディアオモコロ上でもホラー記事を書いている。
こういうのにハマる人へも推していきたいところだが、文字と映像では恐怖の質が違うので、そこは自分の心と相談してみて欲しい。


『このテープもってないですか?』は怖さのクオリティが尋常じゃなく、一見するとただのバラエティー番組でも徐々に統制を失っていく様がありありと描かれていく。ただし、先述のようにぱっと見は普通のバラエティー。正体を知らずにうっかり観始めてしまった人はかなりドンマイだと言える。

第一夜はまだいい。とはいえ、結構ガチの恐怖描写も出てくるのだが。いわゆるジャンプスケアみたいな盛大なホラー技巧には絶対に頼らない、じわじわと足元から這い上がって来る恐怖が既に始まっている。

第二夜。ここからいよいよという感じ。全てが少しずつ、だけど確実に暗闇に向かって転がり落ちているのが分かる。その正体がまだはっきりとは分からないのに、このまま見続けている視聴者の立場も危ういのだと感じるようになる。
そう、これは侵食系ホラー。ここまできたらもうあっちの勝ちなのだ。

とどめの第三夜についてはもう何も言うまい。
ひたすら不安にさせられた結果がアレなのだ。「もうこれが全てです」と〆をお出しされた気持ち。
画面の中が当然のように狂気へと変わり、狂気が当然へと変わっていく。

アニメ映画『パプリカ』を観た事がある方は、分かりやすい狂気のうちの一つである”支離滅裂な口上”について結び付けられるものがあるだろう。


はじめのうちは、本当になんてことはないただのバラエティー番組なのだ。ホラー作品としての評価を聞きつけて観に来た人には冗長に感じるくだりもあるかもしれない。しかし、だからこそこれがのちのち効いてくる。

たとえば、バラエティー番組を観始めて、芸能人が何人か出ているとする。バラエティーのテンションというのは出演者によっておよそ左右されるもので、よほどネームバリューのある有名人ならまだしも、それなりに知ってる程度の人達の場合は番組開始時のトーク内容やテロップ・BGMのノリとテンポ感、こういったものをバラエティーの文法として見せてもらうことによって、視聴者の好みとの親和性をはかっていくことになる。ここで合わなければチャンネルを変えられるし、「こういう番組は面白い」と思ってもらえれば来週も観てくれたりするわけだ。

そして、この文法は時代が変わればもちろん傾向も変わる。『このテープもってないですか?』の中ではとある昭和期の深夜番組にスポットが当てられることになるのだが、この内容は令和の価値観とは大きくズレがある。それは会話の内容だけではなく、バラエティーとしてのテンポ感などもそうである。これをたっぷりと見せられることにより、いざ転換していく場面において我々もしっかりと違和感を感じられるようになっているのだ。

もっと細かく言えば、実は無駄に思えるくだりも考察要素として扱われていることがあるので、そういう意味でも飛ばさずに受け止めてもらいたいところである。


これ、ホラー好きのイチオシとされているけど、正直かなり怖い。人によってはモヤっとするかもしれないが、不気味さやじわ怖を求めている人は好物だと思う。

マトモな皮を被ってホラーな演出をする手法は時に悪手と呼ばれるが、こういった攻めたTV番組を作れる時代がまだあるのだということにメディアの希望を感じている。今や過激さやホラーコンテンツで言えばほぼYouTubeが主体。その中で『このテープもってないですか?』や『SIX HACK』のようなレジェンド級の作品を生み出せる大森時生氏には今後も注目したいと思っている。

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