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陽のマナカケンゴ、陰のヤプール人。最高のキャストが揃ったのに…『ウルトラマンデッカー』第19話の感想

11月26日にオンエアされた『ウルトラマンデッカー』第19話「月面の戦士たち」を観た。

前回からの前後編となっているシナリオで、18話でアガムスの操縦するテラフェイザーと異次元人ヤプールの尖兵アリブンタに対して、ウルトラマンデッカーは大苦戦しつつも退ける。
が、クライマックスでなんとヤプール人によってデッカーに変身できるカナタは地球の外に放逐されてしまったというところから、19話は幕開けとなる。


前作主人公と、50年前からの人気悪役の競演。これで盛り上がらないならどう盛り上がるの?

結論から言うと、この19話。
非常にフラストレーションの溜まる作りになっていた。
特撮がどうこうではなく、単純に脚本の粗が目に付くのだ。

カナタの正体を知らないTPUの面々は、彼の安否を気にしてAIロボットであるハネジローを作戦室で詰問する。
ここはコミカルに描かれているシーンだが、アリブンタは倒したもののヤプールはまだ健在で、デッカーがそのヤプールに連れ去られた瞬間を面々は目撃している。

であるなら、仮にも地球を防衛する立場にある人たちなんだから、警戒態勢は維持しておくべきだけど、その様子が一切描かれていない。
ただただハネジローが苦しい言い訳に終始し、カナタがいないことを誤魔化すばかり。カナタ=デッカーであることは、この時点でまだハネジローしか知らないとされていることからそういう描写になったんだろうけど、うだうだ言ってる暇があるなら誰かがさっさと医務室に確認に出れば済むし、通信機で連絡を試みるのが当然。というか医務室にもモニターぐらいあるでしょうよ。

さらに、本話冒頭でデッカー消失を目撃したアガムスは、彼がいなくなった地球を破滅させるなど簡単なことと嘯く。
すぐに何か行動を見せるのかと思いきや、何と一切、この千載一遇の機会に、何もしないままこれで出番が終わるのだから恐れ入った。

この話は主に地球の外。月面がメインの舞台になるんだけども、地球パートはこのように、添え物程度の演出ばかりで全然しっくり来ないのだ。
敵も味方も何やってんの? 状態なのである。


月面基地で邂逅する陰と陽。この2つの属性が相反する

最大の「なんだそれ」ポイントはメインパートの月面。
カナタと合流した前作『ウルトラマントリガー』の主人公マナカケンゴ。この2人はTPU月面基地に舞台を移して主に等身大の戦闘シーンを盛り上げる。

このマナカケンゴというのは「スマイルスマイル」が口癖で、「世界中のみんなを笑顔にしたい」という強い願いを持つ人物としての人物造形を前作から一貫して維持されている。

その姿勢は敵である闇の巨人カルミラに対しても向けられるほどで、本作では実際にそのカルミラを光の力で救い出して見せている。
闇に落ちた者ですら、光の力で救い出す。そういうキャラということが前作と、本作でも(陳腐で納得できないキャラ作りではあるが、一応)描かれてきたわけ。

さらに本作主人公のカナタは、地球に恨みを抱いて敵となったアガムスを救うため、ここに至る数話の間苦悩を続けてきたという経緯もある。
これを念頭に以下の話を読んで、よく考えていただきたい。

そんな2名の前に登場したのが、ヤプール人だ。
今から50年前に放映されていた『ウルトラマンエース』に登場した、シリーズ初の悪役レギュラーで、人間を憎み、嘲笑し、滅ぼそうとする異次元からの卑劣な侵略者である。
この15年ほどは人間よりもウルトラマンに対して深い恨みを抱くようになっているが、どっちみちキャラクターの属性としてはかなりの“陰”と言える存在なのである。

僕はてっきり、この19話では存在自体がスマイルスマイルな前作主人公のマナカケンゴを“陽”と位置付け、全く対極な“陰”的存在であるヤプール人と相対させることで、双方の精神性の対比を描きつつ、最終的にはカルミラにそうしたように、ヤプールの闇にも触れて、その上で倒すべき存在であることを確認したのちに撃滅するのだと思っていた。

そうすることで世の中には、どうあっても救えない存在もあるということを知らしめれば、こののちに続くクライマックスでのアガムスのキャラ造形にも深みは出るし、それでもなおそんなアガムスを救ってみせるというカナタの決意が行動に説得力を伴って表現できるのだと信じきっていた。

ところが。
このヤプール登場後の顛末の拍子抜けったらない。

本作の主要な敵キャラクターであるスフィアが登場し、ヤプールを取り囲んでその記憶のようなものを抽出。
これで前後不覚に陥った異次元の悪魔ヤプールは、「ここはどこ。わたしはだれ」状態のままふらふらしているところを、変身した2大ウルトラマンの光線で問答無用で滅却されたのだ。

僕は、陰陽双方のキャラクターが同じ場にいる以上、ある程度納得できないまでも、問答の応酬ぐらいあるだろう。せっかくそんなキャストが揃ったんだもの。と思っていたんだけど、現実は“非情”の一語に尽きた。

まさにヤプールは、ただ一度デッカーを地球の外に放り出すための転送装置でしかなかったのだから、アイデンティティもクソもない。

「脚本書いてる段階で、マナカケンゴとヤプールという最高の対比が可能なのに、それを調理しないなんて」と絶句する僕を尻目に、2人のウルトラマンはいつの間にか巨大化し、白いロボット怪獣を撃退。
地球に戻ったカナタは急いで医務室のベッドにもぐりこみ、一件落着でエンディングが流れていくのであった。めでたしめでたし。


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