映画の感想『シン・ウルトラマン』
※本コラムは本年7月に、劇場で『シン・ウルトラマン』を鑑賞した際のものとなります。
久々に映画の感想を。
現在絶賛公開中の『シン・ウルトラマン』を、2回鑑賞してきたので、ちょっとその、ネタバレ込みの感想をこっちに書いていきますね。
観たいと思ってるけどまだ観てないって方は回れ右。
冒頭から凄くなかった?
個人的には本当に、物心ついたときからウルトラシリーズのおもちゃだのカードだのに囲まれていた。
今もいわゆる怪獣オタクで、怪獣や星人のフィギュアを自作するぐらい、ずっと彼らに入れ込んでいる。
1984年生まれなんだけど、1980年放映の『ウルトラマン80』終了から何年も経って、それこそ1989年頃にやっと物心ついたようなものだが、当時はスーパーに行けばウルトラ怪獣の人形のおまけがついたチョコスナックや、カードがついたビスケットが普通に売られてたりしたので、そういう意味でウルトラシリーズはずっと供給されていたように記憶している。
家が貧乏でビデオデッキも衛星放送もなかったので、映像作品を観られる環境ではなかったけど。
そういう飢餓状態を味わうと、人間はそのコンテンツに固執する。
なまじ満足できないまま成長したことで、僕はずっと満足することができないまま、ウルトラシリーズ含む特撮作品を追い求めて、もう40近い。
そのような人間なので2016年の『シン・ゴジラ』も劇場で2回見て、自宅では恐らくもう30回ぐらい再生している。
で、『シン・ウルトラマン』である。
冒頭、「ドンッ、カーーッ!!」というおどろおどろしいあの音と一緒に、おなじみのぐるぐるする逆回し映像。
完成するのは「シン・ゴジラ」の文字で、これがぶち破られて「シン・ウルトラマン」のタイトル。
これは多分、そうするだろうなと予想していたがここからが凄かった。
幸いにしてネタバレを踏まずにいられたため、劇場でシン・ゴジラにそのままパーツを載せたゴメスやら、マンモスフラワー、ぺギラ、ゴーガ(名前がNG版だったね)などが既に登場した世界観であることに驚かされた。これらを自衛隊などが苦労の末討滅したことが明かされる。
その間、ずっと『ウルトラQ』のメインテーマが流れているのも小気味よい。
これだけで1,900円払った甲斐があった。
そして登場するネロンガ。
電気を食う怪獣で、ファンにはおなじみバラゴンタイプのボディである。
このネロンガを食い止めるために到来するのがウルトラマンだが、その登場の余波で主人公の神永が殉死。
子供を庇って衝撃をもろに受けて死んでしまうこととなり、ウルトラマンはその犠牲の上に他者を守ろうとした神永の心に、俗っぽく言えば感動をしたんだろう。おなじみの一心同体となって活動することとなる。
このため、本作では人間としての神永は最序盤とクライマックスの一瞬しか登場しない。
目を引いたのは、ネロンガ戦ではウルトラマンの体色は銀一色だった点。
たしか、1966年版『ウルトラマン』で制作されたAタイプスーツを、スーツアクターの古谷敏さんが試しに着用している写真があったんだけど、それがこんな感じで、まだ銀一色だったような。それのオマージュかな?
なのでこの時のウルトラマンは、ちょっとAタイプっぽく顔に皺のようなモールドがあったよね(注:その後のネットでの情報解禁により、しっかりAタイプ準拠であったことが判明)。
これを確かめるために、2回観た。結果、良く分からん。俺のような純度の高いオタクにはそう見えるだけなのかも。
ちょっとスクリーンの解像度がアレだったので、この辺はソフト化待ちかな。
ネロンガはウルトラマンに電撃を浴びせるが、これを意に介さないウルトラマンの光波熱線によって撃退されることとなる。
ゴジラの体表すら貫いた架空兵器MOPⅡが通用しないガボラ!
怪獣の話を続けたい。
ウルトラマンと一体化した神永。この辺りでちょっと人間社会になじめてない演技に当然切り替わっているが、禍特対メンバーがみんな変な人揃いなので、あんまり浮いていない。
そこに加入する新メンバーが長澤まさみ演じる浅見。
浅見は神永とバディを組むこととなるが、肝心の神永が地球人としての教養を学んでいる真っ最中なのでなかなか意思の疎通ができない。
それでも最低限の会話が成り立つのは、お互い頭がいいからなんだろうなぁと。
そんな折に出現するのがガボラ。
ウランをガボガボと飲むあの怪獣がリメイクされて登場だ。
ガボラは身体から放射性物質をまき散らしながら、核物質の処分場方向に地下を突き進む。
この事態に対処するために登場したのが、2016年公開作品『シン・ゴジラ』にも登場した米軍保有のステルス爆撃機が搭載する架空の地中貫通型爆弾MOPⅡである。
『シン・ゴジラ』ではかなりの硬度を誇るゴジラの体表を貫き、多量の出血をもたらし、これによってゴジラに急速な進化をもたらしてしまったいわくつきの兵器であるが、これを契機よく7,8発投下。
しかしガボラにはこれが通用しない!
さらにMOPⅡの投下は続けられたが、ついには弾切れ。爆撃機は引き返していくのであった。
いよいよ広域の放射能汚染が避けられない事態となった局面で、神永はうま~くメンバーから逸れてウルトラマンに変身。
ガボラは体内に多量の放射能を有しているため、必殺の光波熱線はご法度。
これを使わずに対峙するが、ガボラに結構苦戦する。
最終的にはガボラの吐く放射熱線をまともに食らいつつも、放射能の分布を防ぎ(体内にそれを取り込んで無害化している。そのせいで体色の赤いラインが緑色に)、最後は顔面にパンチ一発。これでガボラを下して、遺体は宇宙に持ち去るのであった(途中で消えちゃったみたいだけど)。
遊星から来たマッチポンプ外星人
個人的に、本作でもっとも気に入っているのが、外星人ザラブが登場するパートとなる。
これはオリジナルのザラブ星人が出現する『ウルトラマン』第18話「遊星から来た兄弟」の忠実なオマージュ。
ネロンガ、ガボラ辺りは結構なアレンジが入っていて、立ち回りも一新されていたが、ここからはよほど庵野さんか樋口さんか、その両方が気に入っていたんだろう。ほぼほぼオリジナルのまんま。
僕もこのエピソード大好きなので、これはこれで良かった。
未見の方からすれば関係ないし。
話の流れとしては、日本政府に対して友好的な外星人ザラブが突如訪問。
手持ちの翻訳機で地球人とも流ちょうに会話してみせる彼は、日本政府に対してウルトラマンは危険な存在だと警告して退散。
その直後、ウルトラマンが暴れているという情報が入る。
夜の港湾地区では、たしかにウルトラマンが施設に被害を及ぼしている。
時を同じくし、神永がウルトラマンに変身する瞬間を捉えた映像(ガボラ戦の直前のもの)がネット上にリークされ、これによって神永と禍特対の立場は一気に悪くなってしまうことに。
港湾地区のウルトラマンが撤退し、政府の要人たちはウルトラマン対策に頭を抱えることに。
そこにやってくるザラブ。防災大臣が「ウルトラマンを敵と決めつけるのは時期尚早では」と発言すると、ザラブは「次にウルトラマンが出た時に分かります」と、原典をしっかりオマージュ。
ここからが好きなシーン。この少し前に、神永はザラブに拉致されていた。
「遊星から来た兄弟」でも流れたBGMをバックにザラブは神永のベータカプセル(変身アイテムね)を渡すよう要求に掛かるが、彼がそれを何故か持っていないことを知ると、どのみち拘束状態だからとたかをくくったのだろう、そのままウルトラマンそっくりの姿に変身し、夜の都市を蹂躙して回るのであった。
神永のベータカプセル。
これは実は浅見のカバンの中にあった。
ザラブの暗躍を案じ、神永はバディである浅見に、最重要機密アイテムを託していたのである。
さらに神永自身も実にアナログな方法で自分がどこに拉致されたか、その形跡を残していた。
殉死前の神永の同僚と浅見の活躍で、とうとう囚われた神永は救助される。このときの神永は手錠で拘束されていたが、浅見のピッキング技術であっという間に解放された。浅見凄い。
浅見は言う。
「あなたの偽物が暴れ回ってる!」
その瞬間、2人のいた部屋を巨大な腕がぶち抜き、浅見はその手に連れ去られた。にせウルトラマンが、神永救出に気が付いたのだ。
拘束を解かれた神永は、浅見から託されたベータカプセルのスイッチを入れる。
閃光と共に、建物を破壊しながら登場するウルトラマン。
にせウルトラマンから浅見を取り返し、優しく地上に降ろすと、素早く悪逆な贋物に向き直る。
ここからの立ち回りは完璧に初代オマージュ。
ついでに、ここで『ウルトラマン』ではおなじみ、怪獣との対決時に流れるあのかっこいいBGMが、よりかっこいいアレンジバージョンで流れる。これは大変すばらしい。
にせウルトラマンに怒涛の打撃を叩き込み、頭部にヒットさせるも、これには当のウルトラマンも痛がるほど。(注:これも原作そのまんま。モーションアクターは庵野さん)
一旦体制を立て直すために飛翔するにせウルトラマンに、本家本元の光波熱線が命中。
墜落するにせウルトラマンは、ここで苦しみながらその正体を表す。
日本政府にコンタクトをとり、ウルトラマンを排斥しようと暗躍していた外星人ザラブは、こうしてその目論見を破られた。
だが往生際が悪いザラブは、ここから破壊超音波を繰り出して悪あがきをする。
2人の外星人は空に舞台をうつして空中戦を展開。
ここでも『ウルトラマン』で空中戦のときによく流れていたBGMが。
まあ、自分が暗躍することでウルトラマンを追い出し、地球を破滅させるのが目的であるザラブなどは、全てが明らかになったあとはもはや敵ではない。
ウルトラマンはザラブ目掛けて八つ裂き光輪を放ち、ザラブは真っ二つに切り裂かれてしまう。
【凶悪なザラブすら利用した悪質外星人メフィラスの登場】
実は外星人は、ウルトラマンやザラブ以前に既に地球に侵入していた。
それがメフィラスである。
人間体は山本耕史。
言い回しも丁寧で穏やかではあるが、神出鬼没で最初のデモンストレーションは、浅見を巨大化させるというものであった。
これも初代メフィラス星人がやったことと同じである。
メフィラスは自身もベータカプセルと同様の原理で生命体を巨大化させる技術を有していることを、浅見を巨大化させることで日本政府に知らしめるのであった。
さらにわざと巨大浅見をその場に残し、人々に調査をさせ、その外皮硬度が人知を超えたものであり、仮に兵器転用すれば……という思惑を植え付け、さらにはそのような恐るべき技術を有する自分を絶対的に畏怖させるように画策する、まさに悪質宇宙人メフィラスの名にたがわぬ立ち回りを見せる。
地球の文化にもかなり精通しているようで、昨日今日神永と一体化したウルトラマンとは文明への理解度も異なる。
地球のことわざを引用してみたり、居酒屋では割り勘を提案したり。靴もかなりいいものを履いている。
個人的にはこのメフィラスの登場はCMで知っていたが浅見を巨大化させるのまでは知らなかったので予想外だった。
予想外というか、「今どき女性を巨大化させたりしないだろ、長澤まさみも断るだろうし」という変な自信というか慢心があったのだ。
でも忠実にでっかくしちゃってたので、まあでかくなっちゃったものはしょうがねえなと割り切った。
まあ、このメフィラスと日本政府とが密約をかわし、技術供与を受けるという話になるんだけども、今作の日本政府は『シン・ゴジラ』と違ってかなり外圧に弱り切っているという印象。
首相役の嶋田久作さんが終始胃が弱そうな表情をしていて、なんか可哀想になった。
『シン・ゴジラ』では官民問わず色んな人が協力をして、多国籍軍の核攻撃前にゴジラの凍結プランを成立させることを目指していたが、本作での政府の立ち位置としては、諸外国に対して核かそれ以上の武力を巡ったゲームに否応なく参加させられているという印象。
ただしこのあたりで禍特対と作劇上は対立するようになる竹野内豊演じる官僚は話が分からないタイプではなく、メフィラスともため口で渡り合うなど、『シン・ゴジラ』での役割をそのまま引き継いだようなキャラクターとなっている。
メフィラスの技術供与を受けるための大々的な式典で、それをウルトラマンに阻止されたときにも特に慌てることもなく、メフィラスにこの後どうするのかを冷静に問いただしている。
メフィラス自身はこの事態を予想していなかったはずだが、ウルトラマンが自分のたくらみを阻止するという意思を曲げないことを悟ると不敵な顔つきとなり、人間体から本来の姿に変身、巨大化を果たす。
ここからの立ち回りは基本的に原作同様。
一進一退の攻防ののち、メフィラス自身はウルトラマンの活動可能時間が地球上では短いことを把握していたので優位に立ち回るが、そのメフィラスの目に、光の星からのもう1人の使者が映ると、攻撃をやめ、地球を去っていくのであった。
その使者とはゾーフィという。
光の星の決定に背くウルトラマン。登場する最強の敵ゼットン
ゾーフィ。
その名前は旧来ファンなら「あ、あれを拾うのか」とすぐ理解できるもの。
『ウルトラマン』が1967年に最終回を迎えたあと、なんの手違いか、本来なら最終回でウルトラマンを迎えにくる光の国の使者ゾフィーが「ゼットンをあやつる」という悪者ゾーフィとしてあやまって紹介されたということがあった。
本作ではその誤った紹介をしれっと組み込んでしまったのである。
地球人がやがて惑星系やマルチバースにとって悪影響を及ぼす危険な生命体であるとの決断を光の星が下し、ゾーフィはただちにウルトラマンに母星に帰るように忠告する。
さらには1兆度の火球を放つゼットンを大気圏外に出現させ、地球どころか太陽系まで消滅させる旨を打ち明けるのであった。
実際問題、阻止されたもののメフィラスの技術供与を日本政府が了承しているわけで、あくなき武力闘争への賛同の何よりの証拠であると、ゾーフィにはそう捉えられていたのかもしれない。
ウルトラマンは神永と一体化したことで人間の心の不安定さ、愚かさ、自己犠牲の精神など、複雑な機微を理解していた。
そのためゾーフィの忠告を無視し、ゼットンに挑む。
ところがゼットンにはまるで歯が立たず、敢え無く敗北してしまうのであった。
ウルトラマンはその後、神永の姿をとって奇跡的に病院に収容され、長らく意識不明の状態となる。
ウルトラマンという神に近しい存在ですらゼットンには勝てなかったことを目の当たりにした禍特対のメンバーで非粒子物理学者の滝はすっかり気落ち。
オフィスに酒を持ち込んでしまう有様。
が、その滝に同じ禍特対メンバーで汎用生物学者の船縁から、神永が事前に残したUSBメモリが渡される。
これにはウルトラマンのベータカプセルの仕組みを地球の化学式に変換した情報が集約されていた。
ウルトラマンは自分がゼットンと戦っても勝ち目がないと知っており、残された人類がこの情報を使ってゼットン討滅への希望を見出すことを期待したのである。
この流れから行くと、原作最終回「さらばウルトラマン」の岩本博士が開発した新兵器、ペンシル爆弾のように、人類が自分たちの英知でもってゼットンを倒すことになるんじゃないか? そのほうがいいんじゃないか? と思っていたが、実際には復活した神永と一緒に、人類とウルトラマンの共同作戦という形で最終決戦が展開されることとなる。
といっても大気圏外のゼットンに禍特対が直接どうこうできるわけではなく、ウルトラマンがゼットンに挑み、そこで二重変身(つまり2回ベータカプセルの力を開放する)することで生じた別次元への入り口にゼットンを押し込めて存在ごと消してしまうというような手法となる。
そしてこの際、その担い手であるウルトラマン自身もどうなるかは不明瞭。
だがウルトラマンは自分がどうこうというよりも、今後も地球が存続されることを願っており(注:この時点で初期と比べて、かなり人間的な思考が染みついている。変わらないのは表情ぐらい)計画に参加することを決心。
作戦は見事成功し、ゼットンは消滅。そしてまた、ウルトラマンも戻ってくることはなかった。
赤い空間でゾーフィにうながされ、目をさますウルトラマン。
ウルトラマンはゾーフィに対して、地球人類への愛情を伝え、さらには自分の命よりも、自分のせいで落命した神永を助けてほしいと懇願する。
ゾーフィは渋ったものの、最終的に了承。
神永とウルトラマンの身体は分離され、禍特対メンバーの見守る中、目を覚ました人間・神永のアップで物語は終了する。
と、これが本作の大まかな流れ。
クライマックスで原作と違う大きな点は、ゾーフィ(ゾフィー)があくまでもウルトラマンと人類に対しては静観の立場を貫いたことと、命を2つ持ってこなかった、というもの。
原作ではウルトラマンはゼットンに敗れて命を落とす。
ゾフィーはそのウルトラマンを迎えに来て「一緒に光の国へ帰ろう」と告げる。
このときウルトラマンは「私の命をハヤタにあげて、地球を去りたい」と、自分と衝突した事故で落命した主人公、ハヤタ隊員のことを案じる。
これに感銘を受けたゾフィーは、2つ持って来ていた命(注:1つはウルトラマンのため、もう1つは自分がゼットンと戦って万が一の事態になったときの予備の命だったという説あり)の1つをウルトラマンに。
そしてもう1つを、結果的に人類がゼットンを倒したこともあってハヤタに移譲して地球を去る。
なのでこの違いを考えれば、『シン・ウルトラマン』ではあのウルトラマンは、あのまま命を落としてしまったと考えるのがベターなんじゃないかと思うところ。
ウルトラマンは不死身ではないし。
さらに言えば本作のウルトラマンは光の使者というよりも外星人の一種だし、人類からすれば正直ザラブやメフィラスと同じく得体のしれない存在。だから価値観もテレビシリーズのウルトラマンとはだいぶ異なる。
光の星が人類を消滅させる決断を下すのもその一例。
その両者の違いを比較しながら楽しむってのもいいかもしれない。
ただこう、最後の作戦がウルトラマンありき、それも彼の犠牲ありきってのが、個人的にはちょっと引っかかったところで。
でもまあ、面白かったからいっか!
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