見出し画像

地方自治体のコロナ対応はどうすべき? 調査から見えたこと、考えたこと

新型コロナを踏まえ、地方自治体は何をすればいいのか。昨年夏にウェブを使ったアンケート調査を行い、そのレポートを学会誌に掲載いただいた。個人的には学会誌への掲載は純粋にうれしいが、本当は会員の枠を超えて、なるべく多くの人に伝えたいと思っている。その想いから、調査結果や考えたことを(ちょっとした裏話も含めて)ダイジェスト的にお伝えしたいと思う。

新型コロナの発生前後で大きく変わったことの一つは、地方自治体への注目度だ。何しろそれまでは自治体がこんな取組をしています、と広報しても、子育て、介護など自治体サービスを利用している人以外にはほとんど注目されてこなかった。もともと役割的には日常生活の縁の下の力持ちだから、これはこれで良かったのかもしれない。しかし、新型コロナが状況を一変させた。日々、知事がどんな言葉を発するかが注目され、メッセージや取組が生活にすぐに影響を与え、ホームページもかつてないほどに閲覧されている。炎上事件が発生でもしなければ、こんなことは今までになかったことだ。一方で、新型コロナ対応に関しては、みんながどんな意識を持ち、どんなことを求めているかについて科学的に調査されてきたとは言い難い。民間の調査会社、コンサル、研究所は定期的に調査しているケースもあるが、こと地方自治体の取組に焦点を当てて調査したものはほとんど見受けられない。実務を行なっている身としては、顧客が何を考え、何を欲しているのか、単純に知りたい。そんな想いから所属している大学院の研究所と相談し、調査を行うこととした。

といっても大学院はお金を出してくれそうもない。競争的資金もあるが、この状況では著名な研究者による高度な研究(例えばワクチン開発レベル)しか採択されないらしい。自治体もそんな予算は取っていない(そもそも関連部署にいなければ無理)。こりゃ自腹しかないわ。好奇心と引き換えに覚悟を決めて調査会社へ委託することにした。そこから企画書を書き、質問や選択肢、回答方法、回答者の属性について何度も考え直した。アンケートは設計が全てだし、アウトプットを考えないとお金と時間の無駄になる。あー、この感覚、公務員だけをしていては本当に味わえない。自腹を切って自分の時間を使うと、お金と時間に異常にシビアになる。本当はいつもこの感覚で仕事をしなければいけないのだ。反省。そして、調査会社に見積もりを取り、一番気持ちに寄り添ってくれそうなところに「お願いします!」の連絡をした。そしてその間に大学院の倫理審査会を通し、アンケート調査の了承をもらった。自腹を切っても、大学の名前を使うには必要な手続きがあるのだ。

構想から約3ヶ月。調査は2020年8月下旬に実施した。北海道から福岡まで、その時点で感染者が比較的多かったエリアを7つと、それ以外のエリア、合計8つのエリアに住む10〜70代の男女約400名に14項目を調査した。職業は会社員、経営者、フリーランス、公務員、専業主婦(夫)、学生、無職など、偏りがないように幅広い構成とした。年齢は30〜40代が最大で、10代と70代に向かって最小になるように山型の構成とした。調査会社の担当者は本当に親切に、質問や選択肢の設計について相談に乗ってくれたり提案までしてくれた。やっぱりどんな仕事も人が大事。つくづくそう感じた。
その時点である程度、実務者としての仮説を持っていたのだが、結果はその仮説と異なる面白いものだった。

1. 地方自治体の取組への関心は「高い」

まず「あなたは、あなたの最も身近な自治体が行うコロナに関する取組について関心がありますか」という質問を行った。その結果、「とても関心がある」が22.6%、「やや関心がある」が44.2%であった。約2/3にあたる人が「関心がある」と答えたのは正直意外だった。どうやら自治体への関心は本物らしい。

画像1

2. 地方自治体の取組に関心がある理由は「最新情報を入手したいから」

次に「関心がある」と答えた人に対して、その理由を聞いた。トップは「コロナ関係の最新情報を入手したいので」、次に「この状況へどのように対応しようとしているのかという考え方が知りたいので」「コロナに伴う制度の内容に関する情報を入手したいので」が続いた。情報だけでなく考え方に関心が向いているのも新鮮だった。これも現場にいるだけではわからない。

画像2

3. 地方自治体の取組に関心がない理由は「自治体に期待していないから」

同時に「関心がない」と答えた人の理由も聞いた。これについては「自治体に期待していないので」「自分が必要とする情報はテレビやインターネットから入手可能なので」が高かった。正直、これまで行政との接点がなかった人にとってはこれが素直な感覚なのかもしれない。例えば、都道府県別の感染者数について、テレビやネットは自治体の情報を引用して編集しているわけで、やはり自治体がどんな仕事をしているのか、一次ソースの提供という役割を果たしていることをもっと伝えなくてはいけないのだろう。

画像3

4. 地方自治体のコロナ対応への満足度は「どちらとも言えない」

次に自治体のコロナ対応について満足しているかを聞いた。最も多かったのは「どちらとも言えない」で約半数を占めた。コロナ終息が見えないことも含め判断自体が難しいのだと感じる。

画像4

ここで答えたことについて、その理由を記述式で聞いてみた。これをテキスト分析すると「情報」「対応」と言う言葉が頻出していることがわかった。「情報が十分/不十分」「対応している/できていない」など、情報の透明性や対応の的確性に焦点があることが伺えた。自治体への期待として、危機に対して適切な対応を行い、丁寧で納得度の高い情報を伝えてほしい、と思われているのだろう。

5. 地方自治体からの情報は「自治体発行の広報物やHP」から得ている

次に、直近3ヶ月以内に自治体からの情報を得た媒体を聞いた。「自治体のウェブサイト」「自治体が発行する広報物や回覧物」と回答した人が約4割を占めたのは予想より多かった。半数の人が自治体の広報物を読んでくれているのは心強い。そう、僕らが作る広報物には多くの読者がいるはずなのだ。一方で、SNSやyoutubeなどは予想よりはるかに少なかった。もしかしたら回答者の年代によって接するメディアが大きく異なるのかもしれない。一次ソースは公開しつつ、ここはうまく発信力のある人と組んだ方が良さそうだ。

画像5

6. 地方自治体に求める情報は「制度内容や手続きに関するわかりやすい説明」

次に、コロナに関して自治体から出してほしいと思う情報を聞いた。「制度内容や手続きなどに関するわかりやすい説明」「数値など自治体が把握している生データ」が2トップであった。データそのもの、そしてその意味や解説をセットで伝える必要性が読み取れる。

画像6

7. 地方自治体に最も力を入れてほしい取組は「医療体制の充実」

次に、コロナ禍を乗り越えるために自治体に力を入れてほしいこと「ベスト3」を聞いた。上位を占めたのは「医療体制の充実」「最低限、生活を保てるような経済的な支援」「行政手続きのオンライン化」であった。生活基盤を支える役割に加え、多くの人が行政手続きを経験し、インフラ投資の必要性を感じてもらった意義は大きい。逆に、教育への投資や職員の人材育成に関する項目は伸びなかった。やはり長期的、俯瞰的に考えるのはプロの仕事なのかもしれない。めちゃくちゃ大事なのにあまり気づいてもらえないジレンマを感じた。

画像7

8. 地方自治体職員に最も重要だと思う要素は「対応のスピード」

最後に、自治体の職員について、特に重要だと思う「3要素」について答えてもらった。トップ3は「対応のスピードが速い人」「市民に対して誠実な人」「物事をわかりやすく伝えられる人」。「受け身ではなく自ら考え行動できる人」「新しい発想を得るためにアンテナを張る人」「大胆な発想ができる人」が少なかったのは意外だったが、これは多くの人が自治体=手続きの窓口というイメージを持っているからなのだろう。

画像8

結果から言えること、考えたこと

結果からすると、地方自治体に求められている役割は次の2つだ。
・住民が生活するうえでの不安を解消すること
・持っている情報をわかりやすく伝えること

また、職員に求められていることは次の3つだ。
・スピード
・誠実さ
・わかりやすく伝えること

しかし、同時にこんなことを考えた。地方自治体の仕事は大きく分けて2つある。窓口系の業務事業系の業務だ。
窓口系は住民票や戸籍など窓口で行う手続きの仕事。おそらく多くの人はこちらをイメージする。もう一つの事業系は、例えば保育園を何年間でどこに何か所作るとか、高齢者福祉の独自サービスを設計するとか、ごみの焼却施設に投資をして長期的にコストを下げるようなことがそれに当たる。

画像9

今回アンケート調査で出てきた「スピード」「誠実さ」「わかりやすさ」は、窓口系ではいずれも必要とされる。しかし、事業系ではこれに加えて分析力や戦略性、創造性などが必要とされる。住民ニーズを捉え、現在の社会環境を捉え、未来の状況を想定しながらベストな手を打つには高い視座とアンテナ感度が要求される。その上で、市民のニーズ・感覚を捉え、十分な情報を納得度が高く伝わる形で届ける力が窓口系、事業系どちらにも必要なことなのだろう。

長々と書いてきたが、やはりこういうものは調査してみないとわからない。調査しても十分はわからないが、調査しないとこうしたことすら考えられなかった。今後は、役所と大学や研究機関が連携しながら、こうした意識調査を分析し、政策に反映させる動きを作っていかないといけない。そんな自分なりの新たなミッションも見つかった今回の調査だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?