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Cannonball Adderley- Radio Night (1967&1968)

本作はヴァージンレコードのジャズレーベルであるナイトからリリースされた未発表音源で1967年の最終週と1968年の第1週の音源をカップリングしたものです。ただ個人的にはもっと後の音源もあるように思います。このナイトレーベルはアトランティックで数多くのジャズアルバムの制作に携わったプロデューサー兼エンジニアのジョエルドーンが自身の録音からいいものを厳選して発表しておりこれはラジオ放送用の音源。この後ローランドカーク、レスマッキャン、エディハリスの音源がリリースされたもののそのあと音沙汰がなく上記4つ全てハイエナという謎のレーベルから再リリースされているもののそれ以来再発はありません。

メンバー
サムジョーンズ:ベース
ルイスヘイズ、ロイ・マッカーディ:ドラム
キャノンボールアダレイ:サックス
ナットアダレイ:コルネット
ジョーザヴィヌル:キーボード
チャールズロイド:サックス

The Little Boys With The Sad Eyes
リリカルで美しいイントロから始まりそこから徐々にホットでファンキーな演奏が繰り広げられます。ロイマッカーディーの叩きつけるような音とシャッフルする音を組み合わせた派手なドラミングがとてもかっこいいです。

Midnight Mood
美しいメロディを持つ曲ですが全員力の入った熱い演奏をしています。キャノンボールのおおらかだけどテクニックもあるプレイが印象的です。一方ナットはマイルスデイヴィスにも通ずるリリカルなタッチの演奏から徐々に盛り上げていきます。続くジョーザヴィヌルはハービーハンコックやビルエヴァンスのようなクラシック的な端正なタッチのソロを披露しています。

Stars Fell On Alabama
この曲はナットは休みキャノンボールのワンホーンで演奏されます。キャノンボールのバラードでの歌うようなタッチの演奏を披露しています。ただ観客の話し声や食器の音がうるさくそこは気になります。こんな素晴らしい演奏してんだから黙って手を止めて聴けよと文句を言いたくなります。演奏場所はウェスモンゴメリーとウィントンケリートリオのライブでも有名なハーフノート。こういったプロミュージシャンの生演奏が聴ける店なら事前に告知があってその日の客は知識があって飲食より音楽が目当てで来ているのかと思っていましたがそうでなかったのかも知れません。

Fiddler On The Roof
アタックの強いベースラインがかっこいいファンキーなナンバー。兄弟2人のホーンも息がピッタリあった演奏でかっこいいです。ソロはスタジオの時とは違いリミッターが外れているので難易度の高そうなソロがどんどん飛び出してきます。

Work Song
ここからはチャールズロイドが加わった3菅のセクステットによる演奏。ファンキーな曲でテーマこそ軽快でファンキーですがテーマ前のイントロでは3菅らしい重さが加わっています。この頃のキャノンボールはファンキーが売りとよく言われますがユセフラティーフやチャールズロイドなど変わった人を起用しているので3菅で厚みのあるファンキーサウンドを作ったベニーゴルソンのジャズテットや、ウェインショーターを入れてモードとファンキーを両立させたアートブレイキーのようなトレンドを入れつつ変わったプレイヤーがもたらす新たな何かを引き出すという高度な挑戦をしていたのかもしれません。

The Song My Lady Sings
チャールズロイド作の美しいバラードナンバー。ナットの掠れたコルネットとジョーザヴィヌルのクラシカルなピアノが印象的です。ジョーザヴィヌルはクラシックの国オーストリア出身だからか本来のスタイルはクラシカルな演奏。本人曰く一時期は第二のビルエヴァンスになれると言われたこともあったそう。

Unit Seven
サムジョーンズによるファンキーな一曲。キャノンボールのバンドの最後の一曲として使われた曲で始まる前にキャノンボールが僕たちがさよならをいう時の曲だよと言っています。シリアスすぎるソロはせず最後にラジオのリスナーのための挨拶と次回予告をキャノンボールが行っています(次週はチャーリーマリアーノとソニーロリンズが出演したようです。)

Cannonball Monologues
この曲はキャノンボールのMCやCountry Pretcherなどのソウルジャズや名前のわからないシンガーがリードボーカルをとるブルース(ジャズブルースではなくBBキングやマディウォーターズがする方のブルース)をいくつかくみわせた曲でこの曲のみアコースティックピアノではなくウーリッツァーが使われているので1968年の第1週より後の気がします。おそらくこの時はなんらかの理由で上手く録音できなかったか紛失したかで全編がなかったテープからいい所を切り抜いたものだと思われます。

こちらのライナーにはナット、ナットの妻アニー、キャノンボールの妻オルガ、そして元バンドメンバーのユセフラティーフ、ロイマッカーディ、ジョーザヴィヌルやナンシーウィルソン、フィルウッズ、ジョエルドーンの回想があります。若干食い違う点はありますが、彼は家族に優しくバンドメンバーにも家族同然に接し(優しさだけでなく喧嘩も!)才能と同じくらい努力をする人で、真面目だけどお金にはルーズな所もあったようです。キャノンボールがオスカーペティフィードのグループに飛び入りして第二のパーカーの評価を得たという有名なエピソードがありますが、彼はミュージシャンになるためにNYに行ったわけではないのが定説です。しかしユセフラティーフにはパーカーが死んだ時これでNYに行けると思ったと語ったそうです。そしてあの時客席にはジャッキーマクリーンと彼に連れられたフィルウッズもいたとか。定説を変えるまでは行かなくとも違う話がありそうなエピソードです。