映画『生きる』観ました。
友人が「私、観たい映画があるんだよね」と言うので
聞いてみたら、カズオイシグロが脚本を書いたものだと言う。
カズオイシグロ、「日の名残り」に感動して
その後何冊かトライしたが、いずれも
響いてこなかったと言うより、よくわからず、
そのまま放置していた。
黒澤明監督の「生きる」の舞台を
戦後日本からロンドンに移し
忠実にリメイクされた作品。
事前情報は黒澤作品との比較に
関するものがほとんどで、
映画「通」ほど原作の微細な表現の置き換えに
一過言があるようだ。
私はといえば、これまであまり映画に
ご縁がないままきてしまっているので
比較なんてできない。
映画を深く味わってきた方々からすれば
作品の真髄に触れることの放棄・・・
ということになるのかもしれないが、
これまで観てこなかったのだから
しかたない。
さて、私の感想。
ビル・ナイの存在感と演技が素晴らしかった。
現役の市役所の職員というより
すでに引退しているような落ち着きぶりに見えるが
現実の欧州には、こういう人は、いる。
淡々と目の前の山積みの書類を片付けるだけの毎日が、
突然の病の宣告によって、これまでの自分の生き方に
大きな疑問を突きつけられる。
ビル・ナイの抑えた演技と
1953年の英国という舞台背景と
厳選された言葉による展開が
主人公 Mr. Williams の心の揺れ動きを
饒舌に語りかける。
この辺りが、黒澤版ファンにとって
物足りなさの一因なのだろうと想像しているのだが
私は、これがカズオイシグロの脚本の秀逸さなのでは?
と感じた。
主人公は英国紳士。
そこには「武士は食わねど高楊枝」的な
プライドと寡黙さを与え、
実は空虚な毎日をハットで隠して
淡々と日々を過ごす。
それが、突然の病の宣告によって
自分自身に生きることの意味を問いかける。
所々に、妻を亡くしてから人生が空虚に
変わってしまったというストーリーが
はめ込まれていて、
最後に雪が舞うブランコのシーンの歌は
もうすぐ逢える、亡き妻に語りかけるように
聞こえた。
歌声も映像も、本当に美しい。
「生きる」は、1953年の英国を背景にリメイクされたが、
トム・ハンクスを主演にしたアメリカ版の話もあると
ある記事で読んだ。
アメリカ版の話は今は途絶えたのか、聞かれなくなって
しまったようだが、黒澤版に忠実なリメイクだとすると
この英国版のあとは難しくなりそうだ。
だって、このストーリーと英国紳士の背中、
とても相性がいいと思うからだ。
これまで映画にはご縁のない人生だったので
黒澤映画、これを機会に少しずつ観てみよう。
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