doesn't story

 仕事帰りにショッピングモールに立ち寄って、中の本屋で本を買おうとレジに持っていくとどうやらページが折れていたようで。店員のお姉さんが「現品限りですがキャンセルしますか?お取り寄せしますか?」って。その本、他の本屋で買おうとしたときにカバーが汚くて買わなかった本でさ。そこでまた選択を迫られた訳だけど。もういいやって思って、「大丈夫です、買います」って貰ったんだ。それで、なんかちょっといいことをした気になって。でも、折り目を許しただけで何もしてないし大して誰のためにもなっていない。それなのに自己過大評価してしまったことと少し我慢したことが急に恥ずかしく思えて、窓を見るとやっぱり雨は降り続けていて。だから出入口でリュックから折り畳み傘を出したんだ。そのとき、傘をいれていた袋の底に溜まった雨水を外に捨てる前に臭ったら、何とも言えない不快な臭いがした。この水は嫌いなあいつみたいだな。と思った。つまりあいつから見た自分でもある。折り畳み傘には今まで散々お世話になってきた。それなのに勝手な感覚で恨んでしまう。やるせない思いに駆られつつ帰路につく。コンビニで弁当を買って「ただいま」と家に帰った。「おかえり」も自分で言うこのシステムを採用したのはいつだっただろう。弁当を温めもせずに食べる。本は袋のまま部屋に置く。きっと数週間後に袋を開けるまで放置するのだろう。読まないと本は、文字は、物語にならない。紙はひとえに重なって、積み耽りてや塵の如し。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?