奪われた憂鬱

 出勤前に抱いていた貴婦人よりも気高い憂鬱は、労働によって今日も搾取された。そんなものはじめからないほうがいいんだから、よかったね。って、君はなにもわかっていない。この憂鬱が、生きづらさを最大限まで引きのばすそれが、私にとってどれほど大切なのかを。どうしても喪いたくなかった。私が私であるために。憂鬱だけが味方だった。信じようとした途端に裏切ってくる幸福なんかとは違って、ずっと、ずっと横で可愛い寝息を聞かせてくれていた。それなのに。こんなことになるくらいなら、仕事なんてしなきゃあよかった。疎外された憂鬱はきっと私に裏切られたと思い込んでいる。そろそろ君にでも付け入りたいころじゃないかしら。私だけの憂鬱、絶対君なんかに譲らないから。夜が明けたら迎えに行く。だからお願い、いい子で待ってて。

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